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暗闇の底――俺の意識はふわふわとしていて、身体がどこか遠くにあるような、不思議な感覚だった。 そこに、まるで嵐のように心を圧迫するものが流れ込んでくる。


 “死者の怒り”、“妬み”、“恨み”、“憎しみ”……。

 それらが一瞬で俺の頭の中を駆け巡ったその瞬間――俺は激しく目を見開いていた。


「う……あれ?俺……生きてる?」


 ぼやけた視界の先に、青黒い天井が広がっている。

 腕を動かすと、何かが違う。不思議なほどしっかりした感覚があるのに、目を落とすと自分の腕は真っ黒で艶めいている。

 腹に刺さっていたはずのミーナの矢も、跡形もなく消えていた。しかも、不思議と痛みもない。


「なんなんだこれ、どうなっちまってる俺の体……。」


 動揺しながらも、何かに突き動かされるように洞窟の外に向かって歩き出す。


 途中、道端にはあちこちに骸骨が転がっていた。

 剣を握ったままのもの、盾を抱えたもの、片方の手だけが散らばっているもの……。


「もし俺も、さっき完全に死んでたら、こうなってたのか……。」


 ぞっとした。死んで当たり前の人生だった――そんな自分がまだ歩いていることが不思議だった。


 さらに進む。すると、洞窟の奥に奇妙な骸骨が座っていた。


 ――魔術師のローブだ。首にかかった銀のペンダント、骸骨の手には分厚い本。

 思わず本を取って中身に目を通す。


「……風魔法の基礎、か。まぁ黒煙なんてニッチな魔導書、そうそうあるわけないか、あはは……」


(確かに珍しいが、希望はあるだろう)


 ――誰かの声が、頭に直接響いた。


「え……今の、誰?どこから?」


(目の前に居るだろう?)


「えっ……まさか……この骸骨!?」


    (あぁ、そうだよ、よく気付いたね)


「いや、でも君は……死んでるはず……」


(君の脳内に直接話しかけているのだよ。この洞窟の魔素が媒介になっているんだ)


「なるほど……いや、全然分からん!意味わかんないって!」


(ふふっ、そこは気にしなくていい。……それより君のその黒い腕だが)


「あぁ、これ?なんか普通に動くんだけど……違和感も、痛みもない」


(……やはり、炭化しているな)


「えっ、炭化!?どういうこと、それ……」   

(魔力のオーバーヒートだ。君の魔素が極限まで集中、構造を変えたんだよ)


「うそ、マジで?……こんなん初めてだ」


(君は恵まれているな)


「ああ、小さい頃は確かに『特別』だって言われてた。でもさ、俺の魔法はFランク。みんなからバカにされて、何の役にも立たなかった」


(それは使い方次第だ。どんな魔法も極めれば、世界を変える力となる)


「そんな……本当に、俺にも可能性があるのか?」


(あるとも。教えてやろう、君の黒煙魔法の本当の力を。だがまず――“理解”するがいい)


「理解?」


(本、開いてみるといい。君の眼と魂が変わった今、読めるはずだ)


 気づけば俺は骸骨魔術師が持っていた分厚い本をめくっていた。

 行間から、今まで全く見えなかった“黒き魔素の流れ”が、俺の脳内に直接入り込んでくる感覚。

 不思議と、全てが明瞭に分かった。


「これが……魔法の本当の姿……?」


(そうだ。君の“黒煙”は、死者の想いと混じり、他者を惑わすだけでなく――現象そのものを書き換える可能性を持つ)


「現象を書き換える……?」


(今はまだ小さな火種だが、君は大きな炎になるだろう)


 そう言って骸骨の目が、ほんのりと、幽かな光を灯した気がした。

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