テラーノベル
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私の名前はシルフ。よろしくね)
柔らかく透き通る声が、頭の奥に響く。
「あ、ぁ……俺はレイ・スモーク」
(レイか。いい名前じゃないか)
「ありがとう……って、色々教えてくれるんだよな?」
(ああ。ただ、君の魔法はとてもめずらしい。王都の魔術師でも使いこなせる者はいないはずだ。道のりは厳しいぞ)
「……わかった。やるしか、ねぇしな」
(それでこそだ。それでは訓練を始めよう)
最初の訓練は、黒煙を「思い通りに操ること」だった。
レイは炭化した右腕をじっと見つめ、意識を集中する。
「……俺の魔力、煙になってる感じ……」
(そう。君の魔素は煙になる性質を持つ。無理に押さえつけると分散するから、そっと包み込むようにしてごらん)
細く長く、指先からゆっくり黒い煙が立ち昇った。
レイはそっと空に指を滑らせる。
「……お、動くかも……いや、ダメだ。バラけちまう」
(“気持ち”と“想像”で導くんだ。煙は命令ではなく、願いに従う。流れを作ってみろ)
「……流れ、流れ……」
黒煙がすーっと宙を泳ぎ、レイの目の前で輪を描いた。
「やった……なんか、ちょっと楽しいかも」
(ふふ、いい調子だ。それじゃ本題に入るぞ。次は、その煙に『灰に変える力』を込めるんだ)
「灰に変える……?」
(強い意思で“消滅”を思い描く。対象が煙に包まれると、魔素が吸い取られ、物質を灰に変える性質があるんだ)
石ころを目の前に置き、レイは緊張しながら手をかざす。
「……この石を消したい、全部灰にしたい……!」
黒煙が石を包む。
初めての感覚。煙が石をなぞるだけで、石は少しずつ淡い灰色に変色し、やがて力なく崩れ落ちた。
「消えた……!これ、本当に俺が?」
(おめでとう。君が習得したのは『シャドウ・イグニス』。君の黒煙が包むことで、触れたものを灰に換える魔法だ)
レイは汗びっしょりになって膝をつく。
「はぁ、はぁ……これが、俺の……“本当の力”……。これなら――絶対に、もう誰にもバカにされねぇ!」
(まだだ。君の煙はこれから先、もっと奥深い力を目覚めさせるだろう。訓練はまだ始まったばかりだ)
「……うん。ぜったい、諦めねぇ、俺は、やり直して絶対強くなる!」
洞窟の奥、淡く揺らめく黒煙のなかで、レイの新たな物語が静かに動き出した――
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