〇小峠君が天羽組にいません
〇でも当然天羽組兄貴達に愛される!
〇潜入捜査って良いですよね
〜︎!!!
〇兄貴達に囚われる華太君好きって思って書きました
〇長いかもしれませんし誤字あるかもです💦教えてくれると嬉しいです
以上がよろしいならどうぞ!
「それじゃあ、行ってきます」
俺の名前は小峠華太
ブラジルのマフィアに属している下っ端の構成員だ。14歳の頃海外に売り飛ばされた俺をボスが買ってくれ、それ以来マフィアに忠誠を誓わされている。まぁ、買われたと言っても殴られたりアジトの掃除させられる等奴隷みたいに扱われるだけだったが。
そんな俺にとても重大な仕事が任された。日本にある「天羽組」という極道の情報集めだ。現在マフィアでは日本にも拠点を置こうという案が出ており、その為にある程度強力な組織の事を知っておこうとされたそうだ。
それで、1番簡単なのが構成員を天羽組に潜入させる事だったそうで、その潜入係に俺が選ばれたらしい。
(何で俺が選ばれたんだ……? )
何とも言えない不安感が募ったが、潜入は決定事項であったため考える事を諦め日本語の復習でもする事にした。何も無いといいが。
「小峠華太です。よろしくお願いします。」
そして俺は日本に着き、天羽組の奴ら……、兄貴達に挨拶をした。自国に来たのはガキの頃以来だった為少し不安だったが想像より上手くやっていけている。というか天羽組は人不足からか俺を手厚く歓迎してくれ、とても賑やかに祝ってもらった。その時出された料理はマフィアにいた時よりも遥かに美味かったし人とまともに話したのは久しぶりだったから少し泣いた。多分バレてない。
1週間後
「よし、ここは終わりだな。」
マフィアの頃こそ入りたては戦場の前線に立ち肉壁として突撃されられていたがここでは違うらしく、どうやら最初は組内の掃除や戦闘の基礎が叩き込まれるらしい。おかげで今の所身の危険はあまり感じない。良かった、と思いながら次の場所を掃除していると、後ろから2つ声が掛かった。
「華太、掃除頑張っているな」
「1つでも埃ある即ち死なのだ!しっかり丁寧にやっているよな?! 」
「えっと…… 」
確か和中の兄貴と野田の兄貴だったな。この2人は天羽組で高い地位にいるらしく、そのためかとても強そうだ。ていうか埃1つあったら死ぬのか俺。俺の身安全じゃなくなっちまった。
「はい、誠心誠意掃除させて頂いています。」
「ほぉ、ちょっと見せてみるのだ」
少し焦ったが返答はこんな感じでいいだろうか。普段はあまり話しかけられる事は無いため少々戸惑った。が、兄貴達の反応を見る限りこれで良かったようだ。取り敢えず掃除は完璧にこなした筈だから粗相の無いよう背筋を伸ばしてしっかり立った。
すると掃除した所を見ていた兄貴たちが突然目を見開き呟いた。
「……おいおい、これはやばいのだ」
「えぇ、これは……」
すると、兄貴達は険しい顔をし見合せてこう言った。
「完璧すぎる……」と
「いや何で本当に一つも埃が無いのだ!おかしいのだ!なんかズルしただろ!」
「掃除にズルも何も無いですよ!」
「しかしこんな綺麗にできるとは……以前何か清掃系の仕事に就いていたのか?」
「は、はい。一応。」
「そうか……」
まぁ掃除なんてマフィアの頃死ぬ程やらされてるし、少しでもゴミがあったらぶん殴られてたからな。掃除は結構得意だ。
掃除で褒められて上機嫌になっていると、和中の兄貴が思いついたような顔をして俺に話しかけてきた。
「そうだ華太。これから須永の兄貴と野田の兄貴3人で焼肉に行くんだが、お前も来れるか?」
「もちろん俺の奢りなのだ」
「えっ」
天羽組の核である3人と食事なんて情報を貰う大チャンスじゃないか!と内心ガッツポーズを決めた。このチャンスを逃す訳がなく、俺はすぐ「是非」と快諾した。その頃時刻は8時を指していた。
「うおおっ、うまいでふ!これとてもうまいでふ!生きてきてよかった!」
兄貴達3人に焼肉店というとこに連れられた俺はそれぞれ勧めてきたものを無理やり食べさせられた。遠慮しても笑顔で勧めてきたあの顔を前には断れない。
それにしてもこの兄貴達が進めてきた焼肉というもの、めちゃくちゃ美味い。こんな美味いもの人生で初めて食った。噛めば噛むほどうまみが出てきて箸を持つ手が止まらない止められな い。恐るべし焼肉。
黙々と食べてると、俺を見ていた兄貴達がため息混じりに次々と話しかけてきた。
「華太ぉ、お前口パンパンじゃん。凄いけどもっとゆっくり食えばぁ?」
と須長の兄貴
「流石に食べ過ぎだろ。多分お前小林以上に食ってるぞ」
と野田の兄貴
「ふむ、いい食いっぷりだな。見てて清々しい」
と和中の兄貴
(これは褒められているのか?)
よく分からないが「ありがとうございます」とだけ返しまた食べれるだけ肉を口に詰め込め続けた。やはり美味い。次はタンとやらも頼んでみよう。 この後俺は兄貴達と会話を交わしながら1時間位肉を食べ続けた。
「ふぅ、美味しかった……」
「まさかこんなに金が無くなるとは思わなかったのだ。」
焼肉屋を後にした俺達は帰路に着いていた。このまま歩けば俺の家に着く。
(また今度来よう……。あれ、俺何か忘れてねぇか?)
そうぼんやり考えていると、
『キャァァァァァァッ!!!』
「っ!」
左脇にあった路地裏の方から叫び声が聞こえた。声質からして恐らく未成年だろう。突然の事に驚いていると野田の兄貴が俺に声を掛けてきた。
「行くぞ華太ぉ。これは絶対にシマ荒らしだ、放ってはおけねぇ。」
そう言い残すと野田の兄貴は声の方へ走っていった。どうやら驚いている間に須長の兄貴と和中の兄貴は既に行っているようだった。正気に戻り慌てて俺も野田の兄貴の後を追いかけた。
『クソッ!お前が声を出すから人来ちまったじゃねぇか!お前ら動くんじゃねぇ!少しでも動いたらコイツを殺すからな!』
『ううぅっ……助けて……っ』
加害者であろう男は見た目16歳くらいの女性を腕で拘束し頭にチャカを突きつけていた。一旦様子を見るつもりなのか兄貴達は男の5m先で立ち止まっていた。俺もそこで止まり、自分なりに何とかできないか思考を巡らせていた。
(クソ、女の子が男の盾になっていて弾を撃てない。一体どうすれば……)
と、その時。急に須長の兄貴がのほほんとした声であの男に話しかけた。
「それ何ぃ?本物の銃なんですかぁ?もしかしたら偽物かもしれないし、動いてもいいー?」
すると男が苛立った様に叫んだ
『あ”ぁっ?!本物に決まってんだろうが!』
そう言うと、男は横にあったゴミ箱向けてチャカをぶっ放した。それと同時に野田の兄貴が待ってましたと言わんばかりの速さで男のチャカを持ってた手に向かって弾をぶっ放った。それは男の腕の丁度真ん中に命中し、痛みに耐えきれずあの男はチャカを放した。
『ぐぁぁっ……!』
男が腕を抱えて座り込んだ時には既に和中の兄貴が女の子に向かって走り出しており、無事救出していた。女の子は安堵からか少し泣いてしまっていたが、須長の兄貴が一生懸命慰めていた。ビックリするぐらい不器用だったが。
「……すごい」
それにしても、兄貴達はとても凄かった。何も言わずとも須長の兄貴の行動で全てを察し、見事な連携プレイで一瞬にして人質を助けたのだ。これまでこんな凄いものは見た事がなかった。これが極道。恐れ入った。
「すごいなぁ……」
「まぁ俺らは最高のコンビだからね!当然なのさー」
「やっぱ俺の命中率は高いのだ!さすが野田神なのだ!」
「流石です野田の兄貴。後、警察には私から連絡しときます。怪我人1人逮捕ぐらいはしてくれるでしょう。」
「おう、頼んだ」
「ねぇ和中君俺は!?俺はどうだった?!」
「ふふっ」
「何で笑ってんのさ華太ぉ!」
「さ、早く帰るのだ」
「はい」
「わあぁ!野田の兄貴!和中くん!待ってえぇ!」
4人で和気あいあいとしながら足を進めていると 、ふと後ろに違和感を覚えた。マフィアにいた頃感じたような気がする。これは……殺気だ!俺は歩いていた足を止め即座に振り返る。すると
「っ!?」
『くそが……絶対に逃がさねぇぞ……』
何とあの男が片手でチャカを構えて女の子を狙っていたのだ。兄貴達は遠くに居すぎて恐らく気づいていない。不味い。と思った瞬間
バンッ!
1つの銃声が鳴った。しかしそれは女の子に当たってはいなかった。なぜなら、
「ぐうぅ……ッ!」
ギリギリの所で俺が男の前に立ちはだかったからだ。マフィアでいつも仲間の盾になるよう練習しといて良かった。 男の弾は俺の左足に当たってしまったが、幸い女の子に弾は当たっていなかった。
「華太ぉ!」
「クソッ、何やってるんじゃお前! 」
銃声によって男の存在に気づいた兄貴達が一斉に俺の元に駆け寄ってきてくれた。俺よりもあの男を、と言おうとした瞬間、目にも止まらぬ速さで和中の兄貴が日本刀で男の腕を切断した。
『ぐわぁぁぁっ!』
「黙れ。よくもうちの華太をやってくれたな。死にたいのか?」
和中の兄貴はそう言うと、日本刀の先を男の首に突きつけた。それにビビったのか、男は顔を引き攣らせ『すみませんすみません』と繰り返していた。 それに対し和中の兄貴は呆れたように
「もう遅い」
と吐き捨て刀に力を込めた。まずい、まさかこれ殺す気か!?焦った俺は慌てて和中の兄貴を引き止めた。
「ま、待ってください!何も殺さなくて良いんじゃないでしょうか!俺は生きていますし、女の子にも身体に被害はありません!それにコイツももうすぐ逮捕されます。コイツにはそれで十分ですよ。」
そう言うと、和中の兄貴は不服そうに刀を下ろしてくれた。
「ありがとうございます。」
「ああ。お前が良いなら手を出す必要は無い」
きっと組としての威厳を守るためなんだろうけど、仮にも潜入として入っているため俺のせいで人が死ぬとなると目覚めが悪い。兄貴の判断にほっとしていると、須長の兄貴が男に向かって不満げにこう言った。
「らしいからお前ここを動くなよぉ。情けをかけたコイツに感謝しろ。 華太、闇医者行くぞ」
すると横に立っていた野田の兄貴が突然俺の足と背中を持ち担いだ。いわゆるお姫様抱っこだ。
「うわぁっ!?は、恥ずかしいですよ野田の兄貴!」
「は!?えーっ!超羨ましいんだけどー!野田の兄貴、俺にもやらしてくださいよぉ!」
「五月蝿いこの頓痴気!こういうのは最年長である俺に任せておくのだ!」
「前俺が片足撃たれた時は歩かせた癖に!」
「須長の兄貴なら歩けるでしょう」
「和中君!?」
また始まったか。やっぱり仲がいいんだなこの組は。微笑まし……あ、不味い。血を流しすぎて意識が混濁してきた。最近貧血気味だったからな……。これは眠たくなるやつ……
「うわぁっ!華太君!大丈夫ぅ!?」
「野田の兄貴!早く闇医者の所へ!」
「うおおおっ氷室おおお!」
あの後俺は兄貴達によって闇医者へ連れられ、氷室さんという医師に左足を診てもらった。この人の腕凄すぎて5日間で治ったがな。まぁ医師自身も「凄い再生能力だな小峠君……」と驚いていたが。きっとそれよりも医師が凄かったんだろう。
あれから俺はカチコミやらシマの見回りやら極道としての仕事を務めあげていった。自分よりも強い人と戦う事だって何度もあってその度に死にかけたし、兄貴達の指導がキツすぎて軽く失神しかけた事だってザラにあった。しかし、俺にとって兄貴達の教えを聞けたり仕事終わり皆で飲みに行けた日々はマフィアに居た時なんかよりとても楽しくて充実した生活になっていた。
___そんな日々が続き早1年。ついに俺はあの組織に戻る事になった。
「……はい。あの倉庫前ですね。分かりました。21時には向かいます。」
時刻は19時。俺は組のとある一室で電話を済ましていた。この部屋は2つの入口があり、風通しが良くて俺のお気に入りだ。時計を見ると もう夕方とはいえない時刻になっていた。
「……今日で皆とお別れ、か。」
1年前の、上手くやっていけるか不安だったあの頃が懐かしい。あの時はこんなに幸せな生活を送れるとは微塵も思っていなかっただろう。
実際、俺にとってこの1年は人生において1番の幸せな思い出になるだろうし、きっとこれ以上の幸せな生活は送れないだろうなと思う。戻りたくない。この楽しくて優しい居場所から離れたくないと思う位に。 もし、自分がマフィアでは無く天羽組に属していたらどうなっていただろうか。舎弟達や兄貴達にも頼られて慌ただしい日々を送っているのだろうか。ああ、そうならきっと幸せなんだろうな、そういう世界線があってもいいな、と考えたが、ハッとして考えるのをやめた。自分はもう天羽組の人間じゃないし もしかしたら次会うのはマフィアとして闘う時かもしれない。そんな時、辛いのはきっと自分だ。それなら、この思いごとここに置いていこう。その方が幾分か楽だ。
時刻を見るともう8時を過ぎていた。意外と時間が経っており驚いた。あらかじめ親っさんには用事があると伝えており8時からは休みを取ってあるため長く居すぎたら怪しまれるだろうから急がなければ。組を抜けようかも考えたが理由が思いつかないし嘘をついてもきっと親っさんにはすぐバレてしまうだろうからやめた。 荷物は昨日でまとめといたため一定の書類を鞄に纏め、忘れ物がないかを確認したら後は荷物をとって出るだけだ。忘れ物が無いかを確認しようとしたその時、後ろから声が掛かった。
「華太」
「……えっ!?す、須永の兄貴?」
驚いた。須永の兄貴ならいつもこの時間帯はシマの見回りをしている時間だから組には居ないし、まずこの部屋は「たまに伊集院の旦那が通るから怖いぃ!」と言ってあまり近寄らなかった筈だ。何故ここに居るのか疑問思ったため「どうしてこちらに」、と聞こうとしたがそれよりも須永の兄貴の発言の方が早かった。
「はい!これ、野田の兄貴が見回り先で貰ってきた饅頭!1個500円するらしい。 あ、ちゃんと野田の兄貴に貰ったって言っといてね! 」
「あ、ありがとうございます!」
そういう事か。その為にわざわざ来て頂いたのは申し訳ないがありがたく受け取ることにする。
「ねぇねぇ、今食べてみてよ!めっちゃ美味かったから! 」
「は、はい。では遠慮なく……」
もぐもぐ。
うん、めちゃくちゃ美味い。さすが野田の兄貴が貰ってきた饅頭だ。中のあんこが甘すぎず、しかも舌触りも良くて絶品だ。
「どぉ?」
「めちゃくちゃ美味しいです。兄貴達から貰った物は全て美味かった気がします。」
「えへへ、そう?嬉しい事言うじゃん華太ぉ〜。ま、これからも沢山食わしてやるよ!ずっーっと!」
「ね?」と須永の兄貴が言うと、一瞬兄貴の顔から表情が消えた気がした。その顔に臆して思わず息を飲んでしまったが1度瞬きをすると須永の兄貴には子供の様な無邪気で嬉しそうな表情が戻っていた。
「……あ、ありがとう…ございます」
(気のせい……か)
3秒ほど沈黙か続くと、俺の後ろを見て須永の兄貴が
「あ!和中ぁ!」
と叫んだ。その声に釣られるように後ろを振り向くと、そこには後ろで手を組んだままこちらへ向かってくる和中の兄貴の姿があった。その姿は月に照らされていてとても端麗な姿で少し見とれてしまった。
「華太か。……野田の兄貴からの饅頭、食べたのか。 」
「はい、とても美味しかったです。……和中の兄貴はこちらに何かご用が?」
「ああ。」
「和中と俺は同じ目的だよね〜!」
「まぁ確かにそうですね」
「え……?」
同じ目的……?2人合同の仕事の打ち合わせでもするのだろうか?だとしたら俺がここに居るのは邪魔になるな。さっさと荷物を纏めてここを出よう。そう思い、俺は慌ててバッグを持って兄貴達に話しかけた。
「そうでしたか、では急いで退出しますね」
「待て華太。俺達はお前に用があるのだ」
「そう!ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい? 」
「……え、聞きたい事ですか?」
予想外の展開。2人とも俺に用があったのか。不味いな、もうそろそろ8時半になるから移動を始めたい時間なんだが。しかしここで変に動いても怪しまれるだけだし、ここは大人しく聞いた方がいいだろう。
「はい、勿論です。一体なんでしょう」
「か」と続くはずだったその言葉は、和中の兄貴に後ろで隠し持っていたらしい書類を見せつけられて切れてしまった。嘘だ、有り得ない。なんで、兄貴が……
「俺の……報告書類を……持って……」
俺はこれまで何か有益な情報が分かる度少しづつパソコンでまとめ、それを繰り返してマフィアへの報告書を作っていた。定期的に情報を送ってはいつかボロがでる可能性があったからだ。そう、俺は組にバレないように緻密に行動をするよう意識していた。なのに何故、兄貴達にバレているんだ!
そうだ、俺は今日仕事終わりの昼に1人で紙にまとめ、その紙を今さっきこのバッグに隠したはずだ。なら、バッグに入っているのは一体何なのだ?!そう思い俺はバッグのチャックに手を当てた。それをみた須永の兄貴が
「無駄だよ」
と言って俺の手を止めた。その時の兄貴の声はとても冷えきっていて心臓の奥がぶるりと震えたのが分かった。何が起こっているか理解ができず、俺は兄貴2人と距離をとって兄貴達を見つめた。
「なんで……!兄貴達が……それを……!」
「なんで……か。ふふふ、笑えるね和中くん」
「えぇ……。華太、お前は俺たち天羽組がスパイの存在に気づかないとでも、思ったのか?」
「っ、それは……」
本当はずっと嫌な予感がしてた。仕事を共にしていく上で俺は兄貴達の勘の良さや情報確保の速さにいつも驚かされていた。すごいなと思うと同時にいつも「もしかしたら自分もバレて…」と考えていた。しかし、兄貴達は俺を家族のように可愛がって下さっていたし、敵意なんてものは微塵も感じなかったのだ。だから油断していた。本当は気づいていたなんて…。
「…いつから、気づいてたんですか」
「最初不信感を抱いたのは俺だ。」
俺が聞くと、質問に答えたのは和中の兄貴だった。
「掃除の手際の良さ…焼肉であれ程喜ぶのに対して服装はみすぼらしくない…そして路地裏での行動。言ったらキリがないが、とてもカタギの人間とは思えなかった。」
「……そんな」
まさか、そんな視点で見られていたなんて。それに路地裏の事件なんて天羽組に入って初期ら辺じゃないか。なら俺は最初から目をつけられていたのか。
天羽組に仇なすものの末路はよく知ってる。俺もそれら始末をよく請け負わされたからだ。兄貴達による尋問と拷問は最初見ているだけでも吐き気をもよおしてしまったし、情報を出し切らせたら即殺された。
兄貴達にとって俺は天羽組に仇なすものにちゃんと該当しているだろうから、俺もアイツらの様な結末を辿るのだろうか。兄貴達によって殺される悲惨な結末を。
……嗚呼、まぁそれもいいかもしれない。天羽組の情報をマフィアに渡すなんて行為、よく考えたら俺に出来るわけない。マフィア に帰ることを躊躇うぐらい兄貴達の事が好きなのに、その兄貴達が危険にさらされる様な事が出来るわけないのだ。ならいっそ、兄貴達によって命を終わらせた方が……
「……いや」
駄目だ。苦しんで死ぬならまだしも、兄貴達に怒りや憎悪をぶつけられながら死んでしまうなんてきっと耐えられない。そんな事になるならいっそ、ここから逃げて自分の手で命を終わらせた方がよっぽど良い。きっと兄貴達は組の情報を持ってる俺の身元を探るはずだから死んだ俺を見つけてくれるだろう。 自己中心的で浅はかな考えに自分でも呆れたがこれが俺の最後の願い。少しくらいひねくれててもいいだろう。
とりあえず、2つの扉の内1つは兄貴達がいて通れないため後ろにある扉から出ることにしよう。それしかない
「ね、華太君。君が知ってる事全てを話してくれたら俺達は……」
「すみません」
俺はカバンを握りしめ体を後ろへ回転させ扉に向かい、出口まで全速力で走った。幸いここから外への出口は近く、このまま走ったらあと20秒位で到着するだろう。俺は走りながらこれからの計画を立てた。まずここから出たらマフィアとの集合場所へ向かい、仲間にでたらめな情報を伝える。もし天羽組と戦うとなった時マフィアを錯乱させるのに役立つだろう。そして少し走ったら車を停めてもらいそのまま失踪して身を投げる。よし、これで行こう。
……にしてもおかしい。裏切り者である俺が逃げてるはずなのに兄貴達が後ろから追いかけてきている様子は無い。いや、一瞬兄貴達の影が見えたから追いかけては来ているんだろうけど、それにしても遅すぎる。あの余裕さは一体……? 兄貴達の様子に不安が膨らんだが、何事も起きず無事出口に辿り着くことが出来た。もしや逃げてもすぐ見つけられるという余裕があったからあんな態度だったのか?まぁいい。取り敢えず早くここから出て車へ向かおう。 そう思い、ドアノブに手をかけたその時だった。
ドサッ
「……え」
何故か俺は___ドアノブから手を離し床に座っていた。
「な、なんで……、ち、ちからが、入らな……ッ」
「あー、良かったぁ!ちゃんと効いたんだねあの薬」
「しかし危ない所でしたね。ここから出る1歩手前じゃないですか」
「まぁ出てないしいいじゃーん」
「まぁそうですね」と和中の兄貴が返すと2人はクスっと笑って楽しげに俺を見下ろした。色々思うことはあったが、薬のせいか俺はぼーっとしてしまって頭で何かを考えることが出来なかった。
「何でか知りたい?いいよ、教えてあげる。華太君がさっき食べた饅頭、実はあれにちょっと薬を混ぜたんだぁ。一時的に神経を麻痺させるものをね。副作用は……何だっけ? 」
「眠たくなる、です。華太、お前は今から半日ほど眠る事になる。そしてその後色々聞かせてもらうからな。 」
「はん……にち……!?」
冗談じゃない。今眠ってしまったら絶対に二度と外へ逃げる事ができなくなってしまうではないか。それだけは避けなければ! 俺は微かな力を振り絞ってドアノブへ手を伸ばした。そして指がドアノブに触れ、後は押すだけとなった時、不意に扉が開いた。
「えっ」
その勢いで俺は前へ倒れ、扉を開けたであろう人にもたれる形になってしまった。一体誰だと疑問に思うよりも先に、須永の兄貴が口を開いた。
「あ!野田の兄貴!いい所に来ましたね!」
「……は?」
嘘…………だろ?
「おー、盛り上がってんなぁ。てかお前あの饅頭食ったんか。全く、お前はもうちょっと警戒心を持った方がいいのだ。」
「しかし華太は真っ直ぐである故、兄貴分である我々の事を信頼していたのでしょう。嬉しい事です」
「まぁそうなんだがなぁ」
突然の事に俺は野田の兄貴からすぐ離れることが出来ず、あまりの恐怖心から手が震えていた。いや、もしかしたら盛られた薬のもう1つの副作用かもしれない。くそ、早く車へ向かわなければいけないのに。
「野田の兄貴ぃ、華太の元仲間はど うでしたか?」
「あー、手応えがまるで無かった。皆ビビり散らかしてたからぱぱっと殺してきたわ。」
「……え。今、なんて……?」
「ん?殺してきたのだ。マフィアの奴等をな。確かこれから本部にも襲撃をかける予定なのだ。だから安心して此処に居ろ、華太」
そういう野田の兄貴からは、確かに強い血の匂いがした。衝撃の出来事に俺はもう何も考えられず、ただこれから起こるであろう結末から逃れようと必死で兄貴達に叫んだ
「そ……そんなっ……!い、嫌だ……!ここから出して下さいッ!ちゃんと自分で命を終わらせます!兄貴達の情報は漏らしませんから……お願いします……ぅうっ……ひぐっ……」
一通り言いたい事を言い終えると、俺の事をじっと見ていた和中の兄貴が宥めるような優しい声色で俺に話しかけた。
「落ち着け華太。マフィアの情報を吐き、お前がずっとここに居れば俺達はお前を殺さなくても良い。お前も辛いのは嫌だろう?」
そう言って兄貴は俺の頭を撫でた。不味い、瞼が重くなってきた。
「ふふ、華太くん眠たそう。まぁ起きてから話せばいいし、眠っていいよ」
「とにかく今は休め」
兄貴達の言葉を最後に、俺は深い眠りに落ちた。
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めっちゃ夢中に読んでしまったΣ(゚ω゚) 続き・・・、気になりますぅ!