テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
再び車が目的地へ向かって走る中、窓の外を流れる景色を眺めながら亜佑美はちらりと運転席を見る。
真面目に前を向く横顔に、信号待ちで止まるたびに、ちゃんと周囲を確認する仕草。
そんな一つ一つが妙に目についてしまう。
(なんだろう、本当にドライブデートみたい)
そんなことを思ってしまった亜佑美の心は少しだけむず痒くなり、誤魔化すように会話を振る。
「ねぇ藍島くんって普段どこに遊びに行ったりするの?」
「俺ですか?」
「うん。休みの日とか何してるのかなって」
「そうですね……地元の友達と遊ぶ時はゲーセンとかカラオケなんかによく行きます! 職場の友人は基本先輩しかいないので、飲みくらい……。予定がない時は映画観たり、ゲームしたり……たまに買い物行くくらいですかね」
「何か、イメージ通りかも」
「そうですか? あの、木葉さんは?」
「私は……友達と遊ぶ時も一人で出掛ける時も買い物したりカフェ巡りしたりとかかな」
「カフェ巡り! だから美味しいお店とか詳しいんですね」
「どうだろ。まあ食べるの好きだから調べちゃうっていうのもあるけど」
「いい趣味ですね!」
素直にそう言われ、亜佑美は少し照れたように笑った。
「藍島くんは映画ってどんなの観るの?」
「あ、えっと……アクションとかSFとか多いです。木葉さんは?」
「私は恋愛映画かなぁ。あとは泣けるやつ」
「なんかイメージ通りです」
「どういう意味?」
「優しそうだからです」
返ってきた言葉に亜佑美は思わず笑ってしまった。
「それ褒めてる?」
「もちろんですよ!」
慌てたように言う姿が可笑しくて、また笑みが零れる。
会話は途切れず、質問をすれば朝陽が返してくれて、好きな食べ物、学生時代の話、最近ハマっているものを包み隠さずに話してくれることが嬉しいと亜佑美は思う。
亜佑美は男性とドライブデートをすること自体はよくあるけれど、
(こんなに楽しかったこと、あったっけ)
そう思ってしまう程に気を遣わなくて退屈せず、時間が過ぎるのがあっという間だと感じることがこれまでにあったかと思い返してしまう。
気づけば退屈を感じる暇もないまま、車は目的地の喫茶店へ到着していた。
「着きましたけど……」
朝陽が車を駐車場へ入れながら言う横で亜佑美も窓の外へ視線を向け――そして思わず目を丸くした。
「うわ……」
店の前には既に長い列が出来ていて、入口からずらりと並ぶ人影に朝陽も驚いたように声を上げる。
「すごく混んでますね」
「そうだね。よく考えてみれば人気店だし休日だもの、混んでるよね」
亜佑美は苦笑しながらシートベルトを外すけれど、朝陽はむしろ目を輝かせていた。
「でも、こんなに人が来るくらい人気で美味しいってことですよね! 楽しみです!」
そしてそう言うと朝陽はさっさと車を降りてしまったので、
「え、ちょっ……」
亜佑美も慌てて後を追った。
外へ出ると朝陽は既に列の方へ向かおうとしている。
「え? 並ぶの? この人数だと……一時間半、二時間くらい待つかもしれないよ?」
「二時間……」
「近くに別の店もあるから、何ならそっちに――」
亜佑美としてはここのパンケーキは気になっていたから並ぶのは覚悟の上ではあるし、朝陽は優しいから付き合ってくれると言うかもしれないが、そこまでしてパンケーキを食べたいわけじゃないはずだ。
そう思って提案しかけた亜佑美だったが朝陽は不思議そうに瞬きをした後、柔らかく笑った。
「俺は全然待てますけど、あ、もしかして木葉さんは待ちたくないですか?」
「え……」
「それなら別の場所に行きますけど、でも、木葉さんはここのパンケーキが気になっていたんですよね?」
そう言って、彼は少しだけ首を傾げる。
「せっかくですし、まだまだ時間もあるし、良かったら待ちませんか?」
その笑顔は本当に嫌そうな様子が一切無く、無理して合わせている感じでもない。
ただ純粋に、“パンケーキが気になるから待とう”と言っているように見えて、亜佑美は思わず笑いそうになる。
これまで関わってきた男の人なら、“待つくらいなら別の店でいい” “並んでまでパンケーキとか食べなくても”と言う男性が普通で、実際、亜佑美自身もそう思うタイプだったはずなのに、今は――朝陽となら待ち時間は苦にならないかもしれないとさえ思ってしまった。
管野アリオ
4,274
530
86
コメント
1件
編集者の寺島あおいです🌷 第7話、拝読しました。藍島くんの「俺は全然待てますけど」の一言に、亜佑美さんの心がふわりと揺れる感じがとても丁寧に描かれていて素敵でした。普段なら「並んでまで」と思ってしまう彼女が、朝陽となら待ち時間すら苦にならない——そう気づく瞬間の甘やかさがたまらないですね。お互いの趣味の話をする自然な会話のリズムも心地よくて、デートの空気感に浸れました。