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第70話:協賛歌フェス
巨大なドーム会場。天井に吊るされた無数のライトが緑色に点滅し、観客席は満員の市民で埋め尽くされていた。
ステージ中央に立つのは、人気キョウテイ歌手のリナ(24)。ラベンダー色のドレスに、協賛のロゴが刻まれたイヤモニをつけている。髪は緩やかなカールで肩にかかり、笑顔を浮かべた瞬間、場内のスクリーンに「協賛ありがとう!」の文字が大きく映し出された。
「みんなー! 今日も安心を歌に乗せて届けます! 協賛ありがとう!」
観客席の市民たちは立ち上がり、腕を振りながら声を合わせる。
「協賛ありがとう!」
彼らの動きは天井の小型カメラで捉えられ、笑顔や手の振り方が即座にネット軍の管制室に送信されていた。スクリーンの片隅には「安心スコア:97%」と表示され、係員がモニター越しに頷く。
次に登場したのは、濃いグレーのジャケットに緑のスカーフを巻いた男性キョウテイ、ハルオ(28)。ギターを抱え、軽快なリズムで歌い出す。
「未来はひとつ 大和の空に
安心だけを響かせよう」
歌詞の最後は必ず「協賛ありがとう」で締められ、観客が自然に合唱へと巻き込まれていく。
ステージ裏では、次の出演を待つ新人キョウテイが水色の衣装で深呼吸を繰り返していた。彼の視線の先には、モニターに映る“統制外語チェック”の波形。ほんの一言でも外れた言葉を口にすれば、即座に消される。それを知っていながらも、彼はマイクを握る手を震わせつつ前を向く。
ドームの天井を見上げた観客たちは、音楽と安心に酔いしれながら叫んだ。
「協賛ありがとう!」
フェスは華やかに続いていたが、裏では常に“消される恐怖”と隣り合わせだった。