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14歳の少年太郎は、怪しげな老人から、妖怪を捕まえ、使役することのできる壺をもらった。その壺で「垢舐め」「油取り」「網切」「袖引き小僧」などの妖怪を捕まえ、夜道を歩く女子高生などにいたずらをして遊んでいた。
「さあ、次はどんな妖怪を捕まえようかな?」
壺の所有者になった太郎には、妖怪を見る力と、その正体を見抜く力が与えられていた。あちこち妖怪を探して歩くうち、奇妙なものを見かけた。
「なんだ、ありゃ?」
それは、着物を着た女性だった。ただし、異常に背が高い。数mはあるだろう。
「これは……高女? ふーん、その身長で2階を覗ける、ってだけの能力か。一応捕まえておくか」
いつものように壺のふたを開け、高女を捉える。……が、これはいったいどう使ったものか?
「とりあえず、驚かすのに使ってみるか」
時間は夕暮れ時、あたりをみると、近くに高校があった。太郎は高校の校門近くの路地に身を潜め、壺の蓋をそっと撫でた。夕暮れのオレンジ色の空に、制服姿の女子高生たちが三々五々、帰宅の途についている。笑い声が遠ざかるたび、太郎の胸が高鳴った。
「よし、まずはここだ。高女、出てこい」
壺の口から薄い煙が立ち上り、瞬く間に数メートルの巨躯が現れた。古風な着物をまとった女性の妖怪——―高女は、まるで竹のようにすらりと伸びた体をゆっくりと折り曲げ、太郎の前に膝をついた。顔は驚くほど整っていて、長い黒髪が地面に届きそうだった。
「校舎の二階の窓から覗いて、誰かいたらびっくりさせてくれ」
高女は無言で頷き、長い体を伸ばして立ち上がる。その姿は、路地の向こうの三階建て校舎を軽く超えていた。彼女は音もなく歩を進め、校舎の壁際に立つと、上半身だけをぐにゃりと曲げて二階の窓に顔を近づけた。
ちょうどその時、教室の中では、陸上部の女子生徒が、汗に濡れたユニフォームを脱ぎ、真新しいブラウスに袖を通そうとしていた。窓の外はもう暮れかけていて、カーテンも閉め忘れたまま。彼女は誰もいないと思い、のんびりと着替えを進めていた。突然、窓の外に——巨大な女の顔が現れた。
「…………っ!」
女子生徒の喉から、悲鳴の半分も出ない息が漏れた。窓枠いっぱいに広がるその顔は、美しいのにどこか人外めいて、長い黒髪がガラスに張りつくように揺れている。目はまっすぐにこちらを見つめ、薄く開いた唇からは冷たい息が白く立ち上っていた。女子生徒は後ずさり、背中が黒板にぶつかる。ブラウスを胸に押し当てたまま、足がすくんで動けない。高女は無表情のまま、ゆっくりと首を傾げた。まるで「どうしたの?」とでも言いたげに。
その瞬間、路地に潜む太郎は腹を抱えて笑いを堪えていた。妖怪の見ている光景は壺を通して太郎も見ることが出来るのだ。
「やべぇ、顔が真っ青じゃん! いい反応だなあ」
高女はさらに顔を近づけ、ガラスに鼻をぺたりと押しつけた。女子生徒はようやく声を絞り出す。
「ひっ……や、やめて……!」
悲鳴が教室に響いた。校内に残っていた顧問の教師が慌てて駆けつけてくる音が聞こえた。太郎は満足げに舌打ちし、壺の蓋を軽く叩いた。
「よし、姿を消せ」
高女の巨躯は人間の目には見えなくなった。教師が教室に飛び込んできた頃には、窓の外にはもう何の影もなかった。女子生徒はあられもない下着姿のまま震えながら教師にすがりつき、泣きじゃくった。
「顔が……巨大な女の顔が……!」
教師は困惑しながらも「疲れてるんじゃないか?」と慰めるしかなかった。
その様子を壺越しに覗きながら、太郎はにやにやが止まらなかった。
「下着姿で先生に抱きついて泣いてるよ。あの陸上部の子、結構スタイルいいじゃん。着替えの途中だったから、ほとんど見えちゃってるし」
高女はすでに路地の闇に溶け込み、太郎の足元で再び膝をついていた。長い黒髪が地面を這うように広がっている。妖怪の目は無感情で、ただ主人の次の命令を待っているだけだった。
「ま、今日はこれで十分かな。いい遊びになった」
太郎は壺の蓋を閉め、高女を収納した。夕暮れの空はすっかり茜色に染まり、校門から出てくる生徒の数も減ってきた。最後に残った数人が、さっきの悲鳴の噂話をしながら通り過ぎていく。
「なんか二階で変な叫び声しなかった?」
「陸上部の子が着替えてたら、窓の外に女の顔が浮かんでたって……幽霊じゃない?」
「バカ、疲れて見間違いだよ」
少女たちはくすくす笑いながら遠ざかっていった。太郎はその背中を見送り、満足げに息を吐いた。
「次はもっと面白いことしようかな」