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海の紅月くらげさん
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最近机の中によくメモが入っている。
【シンデレラを降りろ】という言葉以外にも、容姿を貶すような言葉の数々。
最初は傷ついたけれど、心が麻痺していたのか暴言にもなれてきてしまっていた。
このまま冬祭が終わるまで耐えれば終わるはず。それに犯人が誰だかわからないし、対処のしようがない。
「あ、いたいた。水沢さん」
私の名前を呼ぶその声に、心臓がドキリと跳ねる。
振り返ると、教室のドアの前には九條くんが立っていた。
たくさん聞きたいことがある。けど、いざとなると少し怖い。それに女子からの刺すような視線に足が震えそうになる。
「九條くん……」
艶やかな黒髪に気品のある落ち着いた微笑み。物腰が柔らかくて、どこか浮世離れした雰囲気がある。私の憧れの人。
「話しておきたいことがあるんだ」
「話しておきたいこと?」
「それでね、放課後に音楽室にきてくれるかな」
「え……?」
返事も聞かずに九條くんは「よろしくね」と言って去っていった。なんだか胸騒ぎがしたけれど、もしかしたら私の知りたいことが今日知れるのかもしれない。
ずっと落ち着かなくて授業に集中できなかった。
知りたい。でも、聞くのが怖い。
不安が心に薄暗いもやをかけている。
***
放課後、音楽室へ行くと既に九條くんがいた。
「来てくれて、ありがとう」
その笑みは、作り物のように綺麗だった。なんとなく彼の本心ではない気がして、不安が心を渦巻いていく。
「水沢さんが聞きたいことはわかっているよ。でも、役者が揃ってからにしよう」
「役者……?」
私が聞き返したと同時に勢いよくドアが開かれた。
「泉!」
振り返ると呼吸を乱し、顔色の悪い五人の男子生徒達がぞろぞろと入ってきた。その光景に九條くんは楽しげに声を上げて笑い出す。
「すごいね。あんなメッセージ一つで、こんなに血相変えて現れるとは思わなかったよ」
そう言って彼は目を細め、私に視線を流した。
「この短期間で、少し親しくなったのかな」
歩くんが私を引き寄せて、右隣に立った。左側には和葉が、そして目の前には潤が私を守るように立っていた。
「俺らだけじゃなくて、他人まで巻き込むなよ」
すぐ後ろから実里くんの声がした。その声には怒りが籠っていて、部屋の中は緊迫した空気が流れている。
「泉……なんで俺らをここに呼んだの?」
潤が落ち着いた口調で言うと、九條くんはまたもや楽しげに笑うと、すぐに声のトーンを落として言った。
「わかってるくせに。潤って本当いい子ぶるよね」
そこにいるのは私が知っている九條泉くんはいなかった。声も口調も眼差しも、いつも感じていた優しさはなく、冷たさを帯びている。
「水沢さんに、僕たちの自己紹介をしようと思ってさ」
九條くんの含みのある言い方に引っかかりを覚えた。
右隣の歩くんの顔を横目で見ると、苦い表情で床を見つめている。左隣の和葉は眉間に皺を寄せて九條くんを見ていた。
「まずは……僕は九條泉。九條グループの次期後継者です」
その話は噂で聞いたことがある。
九條グループは、ホテル事業や商業施設、飲食業などを手掛けていて、九條くんの祖父は会長で、父が社長らしい。
「で、君の目の前にいるのが九條潤」
「えっ?」
……今、九條って言った……?
「僕の父の弟の息子、つまり従兄弟」
目の前にいる潤の背中を見つめる。栗色の髪は九條くんとは似ていないけれど、何度か雰囲気や笑顔が似ていると思っていた。
「そして後ろにいるのが九條実里。潤の一つ下の弟」
「え! お、弟っ!?」
驚愕して勢いよく振り返る。実里くんは不機嫌そうに顔を顰めていた。
確かに潤と実里くんの髪は同じ色だ。顔はあまり似ていないけれど。
「それとね、実里の隣にいるのは九條武蔵。彼も従兄弟だよ」
「む、武蔵先輩も?」
実里くんの隣で武蔵先輩は無言で九條くんを見据えている。その瞳は真剣で少し怒っているようにも見えた。
「そうだよ。驚いた? ああでも、あとね……」
九條くんは楽しそうに話を続ける。
「隣にいる柏木和葉、日下部歩も僕の父の妹の息子だから、みんな従兄弟なんだよ」
「う、うそ……」
九條くんの口から語られた事実は、かなりの衝撃だった。
彼らが特別仲良しでも幼馴染みでもないけれど、どこか親しげなのは親戚だったからなんだ。
そして、九條泉くんのことを詳しく知っていたのも、そういう理由だったんだ……。