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S.H
140
#闇バイト
るしゅ
199
74
1,998
143円。
俺の口座残高だ。
もう一回見た。
やっぱり143円。
見間違いじゃない。
「終わってるな……」
思わず笑った。
笑うしかなかった。
コンビニでおにぎり買ったら終わり。
ジュースを2本買ったら終わり。
それが今の俺の全財産だった。
冷蔵庫を開ける。
麦茶。
以上。
閉める。
もう一回開ける。
やっぱり麦茶しかない。
当たり前だ。
数秒前に見たんだから。
「何期待してんだよ……」
自分で自分にツッコむ。
腹は減ってる。
でも金はない。
どうしようもない。
テーブルの上には封筒が積まれていた。
家賃。
電気代。
携帯料金。
どれも払えていない。
赤い文字で書かれた『至急』がやたら目につく。
スマホが震えた。
【母】
その文字を見ただけで胸が苦しくなる。
少し迷って電話に出た。
「もしもし」
『悠真?』
母さんの声。
少し元気そうだった。
それだけで安心する。
『ちゃんとご飯食べてる?』
「食べてるって」
嘘だ。
今日まだ何も食べてない。
『仕事はどう?』
「順調」
これも嘘。
順調だったら残高143円になってない。
だけど言えなかった。
心配させたくなかった。
通話が終わる。
部屋が静かになる。
静かすぎて嫌になる。
俺はスマホをいじった。
SNSを開く。
友達の投稿が流れてくる。
旅行。
飲み会。
新車。
高そうな腕時計。
みんな楽しそうだ。
俺だけ取り残されている気がした。
画面を閉じようとした時だった。
ある広告が目に入る。
【即日10万円】
指が止まった。
【荷物を運ぶだけ】
【未経験歓迎】
【即日入金】
「……は?」
怪しい。
どう見ても怪しい。
むしろ怪しい以外の感想が出てこない。
なのに。
目が離せなかった。
10万円。
頭の中でその数字だけがぐるぐる回る。
10万円あれば。
家賃が払える。
母さんの見舞いにも行ける。
まともな飯も食える。
怪しい。
分かってる。
でも――。
俺はスマホを握りしめた。
気付けば画面には応募フォームが表示されていた。
名前。
年齢。
連絡先。
入力は簡単だった。
嫌になるくらい簡単だった。
最後に表示される。
【応募する】
たった四文字。
なのに妙に重かった。
押したら駄目な気がする。
そんな予感がした。
だけど。
口座残高143円より怖いものなんて、この時の俺にはなかった。
俺は親指を動かした。
そして――。
【応募する】
を押した。
その瞬間。
俺はまだ知らなかった。
それが人生で一番後悔する選択になることを。
(第二話へ続く)
コメント
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読了しました。143円という絶望的な数字から始まって、冷蔵庫の中身や滞納通知、母への嘘——全てがリアルで胸が締めつけられました。「応募する」ボタンに親指を動かすラスト、読者の自分も同じ状況なら迷わず押してしまいそうで、ゾッとしました。続きが気になります。