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それから1週間後にマナは退院した。荻野さんとのことはようやく諦めたようだった。そして再び、俺とマナの2人きりの生活が始まった。でもそれは俺とマナが恋人でも婚約者でもない、ただの同居人だった頃に戻ったにすぎない。今のマナは俺と恋人になり、婚約をしていたのを知らない。だから俺と過ごした時間や思い出は、マナが記憶を取り戻すまで話すつもりはない。ツラいし、苦しくて胸が張り裂けそうだけど、全てはマナのためだった。でもこの先、マナに記憶がることなく、このまま時が過ぎてしまったら、俺とマナはどうなってしまうのだろうか? 再び2人は惹かれ合い、付き合って婚約するのだろうか? それとも学生の時のような友だちの関係で居続けるのだろうか? それは俺にも、誰にもわからない。でも、今の俺はマナを好きだし、マナの全てを知ってるつもりだ。だから、そんな簡単に諦められないし諦めたくない。
それから俺は、マナに記憶を取り戻して欲しくて、マナとの思い出の品をさり気なく家の至るところに置いてみたりした。結婚式場のパンフレットやマナが着る予定だったウェディングドレスの写真も目につきやすそうなところに置いてみた。また、付き合っていた時に2人で遊びに出掛けた場所に無理矢理連れ出した。嫌がってはいたけど、思い出して欲しかったし、思い出してもらわなきゃ困るから色々と口実をつけて連れ回した。そして、そんなことが半年間続いた。でも、マナの記憶は一向に蘇る兆しを見せなかった。それどころか、マナは俺の一連の行動を怪しみ始めた。
「圭ちゃん、 私を色んなところに連れて行くけど何かあるの?」
夕食の後、ソファーで横になってテレビを観ていると、マナは俺の上に馬乗りになって質問を投げかけてきた。
「べっ、別にないよ」
「もしかして、私とデートしたいだけなんじゃないの?」
「そうかもしれないな――」
「私のこと好きなの?」
「――――」
「何で黙ってるの? それじゃホントに好きみたいじゃん――」
「そう思ってもらっても構わないぞ」
「ばっ、ばか言わないでよ。どうして圭ちゃんが私を好きなの?」
「好きじゃいけないか? 俺だって男だぞ。好きな女性がいたって不思議じゃないだろ?」
「だからって、よりによってどうして私なの?」「仕方ないだろ。気付いたらそうなってたんだからよ――」
「私、バカだよ」
「知ってる」
「だらしないし何も出来ないよ」
「出会った頃と全然変わってない。でも、俺にはわかるんだ。マナは変わってくれるって――それにさ、マナも俺のこと好きなんだろ?」
「そうだよ。〝圭ちゃん、だ~い好き〟っていつも言ってたじゃん。でも圭ちゃん、私になんて興味なかったみたいだから、私諦めたんだよ」
記憶をなくしても、俺を好きだった記憶まではなくなってはいなかった。それに、この展開――シチュエーションは違えど、あの時に似ている。