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新《あらた》の小屋では、男達が、黙りこくっている。
「ちょっと、髭モジャ!それじゃあ!守近様が、黒幕ってことじゃない!だって、だって、そんなこと!お方様や、守恵子《もりえこ》様は?それじゃ、琵琶法師は、なんなの!!いい加減な事、言わないで!!わからんちんの髭モジャ男!!」
肩を怒らす上野に、皆、返す言葉がない。言いたいことはよくわかる。しかし、今回だけは、下手に動くと、都に住めないどころか、命すら危うくなる話なのだ。
上野に、手を貸すつもりではいるが、上野の、望んだ様には、動けない。裏には裏があるのだから。
そして、守近の名前が、出ているのが、いかにも、と、いう具合で、不自然過ぎた。
誰、の仕業か、分からないよう、
子悪党が、守近を、囮に使っているのかもしれない。
否、守近も、少なからず、関わっているのかもしれないし、知らぬ間に、巻き込まれているのかもしれない。
子悪党と黒幕がいるのは、確か。が、それらは、繋がっていない。そして、念には念をとばかりに、複数の怪しげな者達を間に入れて、物事を複雑に見せかけている。守近も、そこで、使われているのか、はたまた、一味なのか……。
そして、見えている、部分、に、気を取られて、そこ、をつつくと、確かに、悪事に突き当たる。しめた!と、ばかりに飛び付けば、次の、輩達が、動き出し、更なる、悪事に巻き込まれる。その繰り返しは、どこまでも、続き、結局、狙われたままの一生を送ることになる。
困窮するその間、本来の、黒幕は、悠々と、自身の目的をこなしていく──。
悪事の仕組みを知り尽くした、男達は、上野を、きりのない厄介事に、巻き込みたくなかった。
分かっていても、知らぬ存ぜぬで、通すことも生きる上では、必要で、それが、身を守ことに繋がるということを知っているからだ。
さらに、今回は、守近の存在がある。
これは、下手に動くべきではない。相手、いや、黒幕は、こちら側の事をかなり、わかっているような……。
男達には、嫌な予感しかなかった。
だが、今の上野に、語っても、聞く耳もたず、逆に、火に油を注いでしまう事になるだろう。
「女童子よ、新達の前じゃ、落ちつきなされ」
「うるさい!髭モジャ!」
口を一文字に引き締める、上野は、駄々をこねる、女童子紗奈《めどうじさな》の顔になっていた。
「あー、紗奈のやつ。私が一緒に行けばよかったかなぁ……」
水瓶の水面に映る、妹の様子に、常春《つねはる》は、顔をしかめた。
「……で?どんな具合に?」
「困窮、いや、困惑、あるのみ」
「なるほど、さすがは、頭《あたま》と、呼ばれる親方衆。話は、見えているってことか」
「晴康《はるやす》……?」
不安げに、声をかけてくる常春に、晴康は、言う。
「安心しなよ。皆、手を貸してくれるから。ただ、今回は、屋敷を守るだけ。本当の悪事は、はびこったままになる。それは、手を出せないほど、巨大なもの、と、私は思っているんだけどね。今、が、無事ならそれに越した事は、ないだろう?」
「ああ、そうだな」
常春に、異論はあった。しかし、言う晴康自身も、納得していないはずだ。引け、と、いわんばかりの事を言うのは、言わなければならない、事があるから……。
かなり、混乱はしていたが、常春は、晴康に従う事にした。
「あとは、童子検非違使《どうじけびいし》が、もう少し大人になってくれれば、良いのですけどねぇ」
「晴康よ、お前が、再結成を勧めたのだろう?」
「あれ、そうでした。はあー、少し、しくじりましたか」
晴康は、常春の一言に、眉を潜めた。