『それは、少女に愛された故の力だ』
目の前で勝ちを確信して笑う貴族様。油断大敵だよ。例え、どんなに格下であってもね。
手元にあった硝子の破片を容赦なく腕に刺す。痛い。でも、慣れた痛み。
「……それは、なにかな?」
そうだよな。普通、そうなるよな。知らないだろ?自分が自分を傷つけることがあるんだって。それを、意図的にする人間がいるんだって。その目が語ってるぞ。”初めて見た”って言っている。同時に”興味”と”不気味”がこっちを見ている。お前は、こんな人間知らないんだろ?
この世には、好んで自傷する人間がどれほどいると思っている。私も、その中の一人だった。理由は、人それぞれだろうね。救われたい、異質な目で見られたい、特別な子になりたい、存在を認知して欲しい、痛みが好き……。これ以外にも色々あるだろうね。
私の場合は、もっとシンプルだ。自分に自分で罰を与えている。そうしないと、明日の朝日が拝めない。こんな人間が、息をしていいわけが無い。許されない。許されない。許されない。そう、許されないことをしたのだ。家族を殺され、私だけ生き延びてしまった。家族は私に生きて欲しいと言っていたのに私は一度自殺未遂をしている。家族の信頼を裏切った罪悪感だけが私を縛った。自分に自分で傷をつけないと息をしていい理由が生まれない気がして、こんな人間が生きていていい理由がない気がして、ずっと、繰り返していた。
でもある日、ふと思ったんだよ。これ、無駄な事なんだって。何をしても、私の罪は許されない。多分、来世でもないと精算できない。だから、考えた。この今現状、苦しんで生きている今こそが、私の罪滅ぼしだ。そして、私は自傷癖から抜けた。だけどその代わりに倫理観が死んだ。故に今は殺人鬼である。生きながら、罪を滅ぼして、死んで、来世でまた償う。それが、私の救われ方。
傷をつけた腕から血が留まることを知らずに流れ続ける。そして、貴族様の足元までたどり着こうとした時に目の前に異常な音を出していた銃使いのうちの一人が目の前に現れた。
黒く長い髪に毛先だけ桃色の、見た事のある色だった。本能的に目の色を確認した。目の色は、黒色で、中心に近づくと桃色が入っている不思議な色だった。綺麗な、軍服を着た女の子だった。
「……おや?前には出てこないという約束では?追加料金は払わなくてもいいかな?」
こく、と頷いて返事をする女の子。見た事のある、どこかで、ずっと、見ていたはず…?
……いいや、早く貴族様だけ殺してしまおう。血が、既に足元を覆っている。ここまで来たら私の勝ちだ。
私の力は、これが最後だ。私は、自分の体を媒体としてとてつもない爆発を起こせる。生命に関わるものであればあるほど爆発の威力は増していく。血は、心臓の次に威力が高い。それを、大量に足元に流した。これ終わったら貧血確定である。
そして、能力を発動させる。その波動を感じたのかスナイパーが私に向かって撃った。またしても、命中。まじであのスナイパー凄いな。でも、ごめんね。この人も巻き込んで爆破するね。何人殺そうとも、もう何も感じない体になってしまったから。
目の前で、盛大な爆発が起こる。綺麗な花火だなぁ……。人の心臓の音が消えた。人間じゃない音が、2つ、鼓動していた。びっくりなんてレベルじゃない。あれで、生きてるの?信じられない。……まぁ、顔見られちゃったからこの人達も殺すか。音がまだ近い。さっきの女の子だけがまだ近くにいる。この子だけでも殺してしまおう。
……なら、どれほど良かっただろうね。もう1つ、遠くにいた音が近づいてきた。女の子を守るような姿で、そこに居た。
黒い髪に毛先だけ白色の、こちらも見た事のある色だった。目の色は黒色で、中心に近づくと白色が入っている。女の子と似たような、軍服を着た男の子だった。
血はまだ地面に残っている。容赦なく爆破させた。
……おかしい。おかしすぎる。こいつら、人間じゃない。傷は付くけどそれに躊躇いがない。普通の人間ならこの傷は致命傷になるから避けるはずなのに。避けない……?
男の子の方が少し遠くに避けて、睨むようにこちらを見る。…いや、私じゃなくて避け無かった方が悪いでしょ。
「……お嬢!!」
声が、響いた。お嬢、と呼ばれた女の子も悔しそうな表情をしながら逃げる姿勢に入った。…そんなに睨まないでよ。私のせいじゃないって。
「……分かってる!!」
心臓が、止まったかと思った。声が、聞いたことのあるなんてレベルでは無い声だった。あの声は、何度も聞いた。私達の、愛すべき祖国で、何度も、何度も、何度も。
あれは、人間の国の、最後の生き残り?あの声を、聞き間違えるわけがない。私が、他の誰でもない私が間違えるわけない。
あの人は、人間の国の、王女様だ。じゃああの男の人は、姫様の騎士?…よく覚えているな。もう何年も前の話なのに。生きていた……?あの惨状を乗り越え、生きていた?
この思考をまわしているうちに、二人は逃げたようだった。正体が分かってしまった以上、攻撃なんて出来るわけがなかったけど。なんて、歪な運命。なんで?「調停者」の護衛役なんて、しているの?貴女様がいれば、どうにでもなる運命だったでしょ?
この世界は、なんて残酷なんだ。人生で初めて、殺せなくて良かったなんて、思った。
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えええ!?ちょ、待っ、ええ!?蒼音さんの行動が予想外すぎた……💦貴族様を殺 すためならどんな手段も使う姿はかっこいいけど、蒼音さんには自分を傷つけすぎないように気をつけてほしいな…… え、お嬢様……!?騎士様……!?この2人が今回の貴族様が雇ったスナイパーだったのか……😳😳 人間の国の王女様とその騎士様が生きてただけでも驚きなのにお嬢様が「調停者」の護衛役なんてもっと驚いただろうな……