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「兄さん、これからフェリシアーノのところに行ってくるが」
僅かに本から目を上げ、おう、と事も無げな返事が返ってくる。
「たまの休みだ、俺に気なんか遣わねぇで行ってこい。留守番は任しとけ」
「………ありがとう。では行ってくる」
「楽しんでこいよ」
犬たちの声を背に部屋を出る。こちらに手を振った兄の手には包帯が巻かれていた。
犬に噛まれた傷ではなく、自分が留守の間に皿を割ってできた傷だと言っていたが…
相変わらず、嘘が下手だ。
皿の数は減っていなかったし、割れた破片でできた傷ならすぐに治るはずだ。包帯などする必要はない。であるなら、残された可能性は一つ。
ーその場所に残る傷跡を見せないようにするため。それか、とっくに治っているはずの傷が残っているのを隠すため。
国である自分たちには、人間よりも強い自己修復能力が備わっている。もし、それが働いていないなら。
もう認めざるをえないだろう。
それなりに長く生きたが、「神聖ローマ」の化身たる人間にあうことは一度もなかった。そして、一度だけ会ったローマ帝国もまた、その国同様今は存在しない。
ーーー消えた国の化身だった彼らは残ることを許されなかった。
ならば。兄さん、貴方もまた。
ーーーきっと、消えてしまうのだろう。
恐ろしい結論には、何も、何一つ反論出来る根拠がない。どうすればいい。
この体に宿っていた神聖ローマ帝国は、どんな終わりを迎えた?
彼の記憶の残滓が今も自分に残るように、貴方を生かす方法がないのか?
どうしても、彼のことを知らなければならない。そうしなければ、何もかもがきっと手遅れになる。
フェリシアーノへの気持ちも、兄の行く末も、大切なことの手がかりは全て、「彼」を知らなければ始まらないのだから。