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国を失って、家で一人でいることが増えてから、よく考えることがある。
自分は、どのように消えて行くのだろうかと。
国や母体を失って消えていく国は何度も見てきた。あっけない終わり方をしたやつも、ろくでもない消え方をしたやつだっていた。
「何人も何事も愛を持って接すれば 相手にもきっと届くと私は信じています」
古くからの馴染みの騎士団はそんなことをずっと言っていた。強くなることばかり追い求めていた自分と違って、あいつは元々の役割通り、神を信じ、人を愛し、いつでも祈りと歌を忘れない奴だった。
俺たちには、奪わなければ何一つ自分のものすらないというのに、愛を語って…与えることばかりして何になる。
馬鹿な奴だと呆れる反面、そのどこまでも誠実な姿に密かに尊敬の念を抱いてもいた。
だが、お前の最期はどうだった。
最期に立ち会ったわけではない。それでも、お前が妬まれ、疎まれて、総長が火刑になってすぐ後に役割を終えたと聞いたのだ。
愛も、歌も、信仰も、何もかも本物だったというのに、届いてなどいなかったのだ。
奪わなければ。強くならなければ、お前のように何もかもを奪い尽くされて野垂れ死ぬ。
だから、与える必要などない。ただ、奪う。
そうしているときが一番満たされたし、楽しくもあった。
大義も何もなく、ただ自分の好き勝手に暴れているほうがいいだろう。
そうして、いつしか国を持つほどに強くなった。
間違っていなかったと思った。
「俺の体で、新しい国を作れ」
そう言った彼の顔は笑っていた。
「お前の体はお前のもんだ。お前が消えたとして、その体が好きに使われていいのかよ」
信じられなかった。自分の体をやすやすと手放すことが出来るなど。
「喜んで、とは言えないな。お前の言う通り、俺にも国としての誇りはある。消えていくのは悔しいさ。だが………ずっとありもしないものを追いかけてきた俺が、もしこのまま消えたら何が残るか、ずっと考えているんだ」
何を残すか。今まで考えようとしてこなかったことだ。
だが、親父もそんなようなことをよく言っていた。こちらから答えがないのを見てとって、神聖ローマは言葉をつづけた。
「俺の夢には形はない。国もなく、人もなく。存在した痕跡もすでに地図から消えた。だから、遺したい。俺がこの世界に存在した意味を。俺自身では何も遺せていなかったとしても、確かに誰かに世界と未来を託せたなら、きっとそれだけで、俺が存在した意味はあるから」
彼の笑顔に返す言葉がなかった。なぜ自分が存在もしない、あり得るかどうかすらわからない未来に全てを託せるのか分からなかった。
だが、彼の体に宿った新たな国に、ルートヴィッヒと過ごすうちに、神聖ローマの言った意味が分かるようになった。
奪うばかりだった自分が、初めて喜んで与えたいと思えた相手だった。ルッツになら知りうるもの、持ちうるもの全て与えてやりたくなった。
『何人も何事も愛を持って接すれば 相手にもきっと届くと私は信じています』
今になってあいつの言葉も、間違ってなかったんだろうと思った。ただ、あいつは俺よりもずっと先に立って、先を見通していたんだろう。
消えるならきっと、何もかも奪われて、喪って、戦いの中で惨めに終わっていくんだろうと思っていた。そうならないためにずっと戦ってきた。
だが、同じ消えるのなら、喪うのなら、その全てをお前に託して終わりたい。
空っぽになって、お前に全てを託して消えて生きたい。
そうできたなら、最期の瞬間に何一つ後悔などない。ない、はずだ。
―――なあ、お前もそう、思うだろ?ルッツ。