テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
声を聞き、廊下の奥からタッタッタッと足音が聞こえた。ポットと瓶が複数入った木箱を両手に持った野崎が、ミコトの部屋にやってくる。
野崎は全て分かっていたかのような顔で、冷静にミコトへ指示を出した。
野崎「やはり……ミコトちゃん、ユミちゃんのお母さんの頭を起こせるかな?」
ミコト「うん」
ミコトがユミの母の頭を抱えて膝の上に乗せると、閉じていた目がパッと開き、真っ黒な瞳がきょろきょろと動いた。意識は戻ったものの視点が定まらず、せん妄状態のようだ。
ミコト「目が開いたよ」
野崎「おっ!お母さん、大丈夫ですよ」
野崎はそう言うと、持っていた木箱から吸い口のついた瓶を選び出し、ポットの白い液体を注いだ。
野崎「さあ、飲んでください」
瓶のノズル部分をユミの母の唇に当てると、チューチューと飲み始めた。
ミコト「私があげたい!」
野崎「ではお願いします、どうぞ」
野崎がニコリと微笑んで瓶を手渡すと、ユミの母は再びそれを飲み始めた。野崎はミコトの母性本能を感慨深く見守っている。やがて、ユミの母の口から「ママ」という言葉がこぼれ落ちる。ミコトは意外な言葉に驚いたものの、すぐに優しい笑顔に変わった。
ミコト「かわいい……ユミちゃんのお母さん、赤ちゃんみたい」
野崎「一時的な幼児退行でしょう」
ユミの母は全部飲み干すと、スースーと寝息を立てて眠りについた。
ブロロロロ、キキィッ。
野崎「お母さん、起きてください」
ユミの母はその
呼びかけに、車の後部座席で目を覚ました。
ユミの母「えっ……ここはどこ?」
野崎「吉田さんの自宅前ですよ。疲れていたのでしょう」
ユミの母が車を降りると、野崎は「お大事に」と言い残して走り去っていった。時刻はすでに9時を過ぎている。娘のことが心配になり、焦る手つきで玄関の鍵を開けた。
ユミの母「ただいま!」
母の帰りを待ちくたびれて、玄関のカーペットの上で寝てしまっていたユミが飛び起きる。
ユミ「ママー!」
泣きじゃくりながら母に抱きつくユミ。
ユミの母「寂しかった? 一人にしてごめんね……」
母も泣きながら、しっかりとユミを抱きしめた。
第一部
完
コメント
1件
お疲れさまです、第10話読了しました! 「ママ」って呼んだユミさんのお母さんが赤ちゃんみたいで、それにミコトちゃんが母性全開で応える流れ、じんわり沁みました……。ラストのユミちゃんとの抱きしめ合いでも涙腺が緩みました。第一部完、おめでとうございます!続きが待ち遠しいです🌷