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「――――……ワール様、エトワール様」

「んん……」

「もう着きますよ」

「あぇ」


寝ぼけて変な声が出た。けれど、アルバはそんなこと気にする様子無く、私の肩を優しく叩いていた。いつもは、リュシオルにたたき起こされているから不思議な気分だなあと思いつつ、リュシオルがいない事に対して寂しさを覚えていたんだと知った。


(今頃何しているだろう……)


災厄の影響は、世界中に広まっているらしいから、聖女殿が幾ら安全とは言え、本当に窮屈な思いをしているだろう。それに、聖女殿が安全だと言っても、その安全度合いは完璧ではないだろうし。

そんなことを思いながら、寝ぼけ眼を擦って起き上がる。いつの間に寝てしまっていたのだろうか。

顔を上げれば、心配そうにアルバが見ている。最近アルバのそんな表情を見てばかりだなあと、しっかりしないといけないと強く思わされた。私は、彼女の主人であり、彼女に守りたいと思わせられる人間でありたいと思っているから。

守る人間が弱かったら、守る側の負担になるし。それに、ただ守られているような弱い人間ではいたくないと思った。あの頃は、自分で自分を守っていたけれど、精神的な面じゃなくて、此の世界では身体的な面で。


「ああ、ごめん、寝ちゃってたんだ」

「はい。いきなり眠ってしまって。先ほどの戦いで魔力を消費しすぎたのではないでしょうか」

「そんなことないよ。魔力は残ってるし……でも、眠いってのはあった」


少し寝不足だなあとは思いつつ、眠れなかったのは確かだし、いきなり気を失うようにして眠ってしまったのかも知れない。だから、アルバは心配したのだろう。

魔力に関しては全然有り余っているので、このまま行けば、持つだろうし……


(まあ、戦い方とか、敵の数によって持つかは大分変わるだろうけれど……)


どうなるか分からない。けれど、アルベドに教わったやり方でやれば、魔力切れにはならないだろう。


(と言うか、何か魘されてた?)


身体が痛いのは、座ったまま眠ってしまったからだろう。けれど、何だか、心臓が煩かった。ドキドキして……ではなくて、嫌な感じの鼓動。混沌が近くにいるからなのかも知れない。聖女……女神の天敵が混沌だと言っていたから。その影響もあり得ると。

考えても仕方がないことだし、誰しも、自分より大きな存在に立ち向かうのは恐ろしいことだ。だから、仕方がないと、私は言い聞かせて身体を伸した。


「ねえ、アルバ。私魘されてた?」

「いいえ。しかし、寝付きが悪そうには感じましたが……汗もかいてます。私のハンカチを使ってください」


と、手渡されたハンカチを私は受け取って汗を拭いた。彼女に言われたとおり、汗をかいていた。全然覚えがないけれど、魘されていたかも知れない。でも、それが表に出てこなかったと言うことは、深層部で嫌なものを見たのかも知れない。


(思い出さない方が良いと思うけどなあ……)


気になったら、とことん知りたい欲が出てきてしまうが、私はグッと堪えた。コンディションはしっかりしておかないと。


「そういえば、もう着くんだよね。部屋でておいた方が良い感じかな?」

「そうですね。ですが、雨が降っているので、ギリギリでも良いんじゃないでしょうか」

「そう……? でも、ラジエルダ王国の事見ておきたいし」


資料には限り無くゼロに等しいぐらいしかその情報が載っていなかった。ラジエルダ王国出身の彼も、いないわけで、ラジエルダ王国が実際どんなところか分からなかったのだ。

私はアルバに無理を言って外に出て、吹き付ける風に吹き飛ばされないよう、手すりに掴まりながら、間近に迫ったラジエルダ王国を見た。

一見普通の島に見えたが、ラジエルダ王国を覆うように分厚い黒い雲がかかっていた。山に雲がかかる感じで、あそこだけ異様に黒く感じる。あの中心部に混沌とトワイライトがいるのだと言うことは見て分かった。紫色の異様な雷もスパークしている。


(きっと、本来、あんな島じゃなかったんだろうな……)


前までは、ラスター帝国と交友関係にあったと言っていたし、海に囲まれた国と言うことで、かなり陽気で気さくな人達で溢れていたんじゃないかと。まあ、その出身である彼は復讐に飲まれて全然陽気でも何でもなかったんだけど。


「もう少しで着くと思いますが、かなり揺れると予想されるので、私に捕まっていてください」

「あっ、ありがとう。アルバ」


差し出された手に私は捕まる。言われた瞬間、ザブンと乗り上げるような波が押し寄せ、私はアルバの胸に飛び込んでしまった。

内心キャーと悲鳴を上げながら、私ではない煩い心臓の音を直で聞いていた。


「あ、アアルバさん?」

「あああ、あ、えっと、全然大丈夫ですから! エトワール様に怪我がなくてよかったです」


と、アルバは、全然大丈夫じゃなさそうに言う。顔が赤いように感じたし、煩い心臓の音が、大丈夫じゃないことを示している。

本当に私の事好きだなあ何て一人で笑う。

そんな風に、アルバにくっついているうちに無事に到着したようで、抱き合う形で船の端っこにいた私達に、リースが声をかけてきた。


「何をやっているんだ」

「何って、倒れそうだったから支えて貰ってただけ」

「……」

「怖い顔してる。そんな、だって、私達女の子同士だよ?」


完全にいつもの嫉妬ましましという顔を私に向けてきたため、私は少しだけ煽るようにリースに言う。リースは不満ありありといった顔で私を見ながら準備が出来たら降りてくるように、とそれだけ言っていってしまった。

こういうの慣れていないのかなあなんて思いながら、私はアルバの手を離す。少し寂しそうにアルバは私の手を見ながら歪んだ襟を直していた。


「お見苦しいところ見せてすみません」

「え? 全然。アルバは可愛いなあ~何て思っただけだから」

「え、エトワール様!?」


ブワッと顔をさらに赤くして、アルバは真面目に反応する。それが面白くて私は笑った。この子が私の護衛でよかったと改めて思いながら、船を下りた。降りたところは港だったが、人がいる気配が全然しない。

誰かが潜んで私達を狙っているんじゃないかとすら思うほど、不気味だった。


(奇襲攻撃仕掛けてくる……って事もあり得るんだよね)


異様な雰囲気。雨も降って視界も悪い。

災厄のせいで、皆が疑心暗鬼になっており、味方側の空気も悪かった。こんな調子で、ラジエルダ王国の中心部まで行けるのだろうかと。


「周りに敵はいないようだが、気をつけるように」


そうリースが言って、私達は警戒しながら歩き出す。

周りに人がいないと分かったのは、魔力探知機を使ったからだろう。あの、魔法石を使って作った魔道具で。本当に便利だ。

けれど、何処から飛び出してくるか分からない状況であり、私達は一瞬の隙も見せることは許されない。気を抜いたら噛みつかれてしまうかも知れない。


(覚悟はしてきたけど、矢っ張りこの空気感苦手)


張詰めた空気。天候も相まって気分は最悪だった。軍の士気が下がるってこんなことを言うんだと惚けていると、とんと後ろから肩を叩かれた。


「うひゃぁ!」

「お前、何て言う声出してんだよ」

「あ、ある、アルベド」


そこにいたのは、あのイタズラ好きの紅蓮だった。私が変な声を出したことを楽しそうに笑っている最低な男。と言うか、何で此奴がここにいるのかすら理解できなかった。


「アンタ何でここにいるのよ。自分の場所に戻りなさいよ」

「大丈夫だって。そもそも、俺達は暗殺者向きの人間だし、奇襲しかけられたら仕掛け返すみたいな感じでやろうかなーなんて思ってんだよ」

「軽すぎない?」

「重く考えんなよ。つか、こういうやらしいやり方は、俺達の方が危機察知できるだろ?」


アルベド曰く、アルベド率いる軍は、軍というより、暗殺者の集まりで、奇襲を仕掛けてくるだろうヘウンデウン教の攻撃を防ぐ係だそうだ。にしても、よくそれをリースが許したものだと、感心してしまう。

こちらも手段を選ばないと言うことだろうか。


「まあ、港の方には敵がなかったが、もう後数㎞先に罠張ってる奴らいるからな」

「何で分かるの?」

「闇魔法にはそれぐらいお手の物って事だ」


答えになっていないと私は怒ったが、確かに、光魔法だけの部隊とは違って、アルベド達の闇魔法を使える人達はそういうのを感知できるのかも知れない。


「それに、俺の知っている魔力を感じたしな」

「それって……もしかして」


私にもかすかに感じ取れた。

アルベドの目つきが変わったと思った瞬間、ピンと糸が張ったようにルーメンさんが叫んだ。


「敵襲!」

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