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エンジン音と共に、ゆっくりと滑り出すトラックの荷台から外を見ると、お父さまは病院の門の前でずっと手を振っていた。ちいさくなっていくその姿に、わたしはとても不安になって、
「お父さまは大丈夫ですか?」
と、わたしを膝に乗せたまま、やさしく頭をなでてくれているお母さまを見上げた。
黒髪が、鼻にあたってくすぐったいけれど、いつも通りのいい匂いに、わたしは安心できた。
「響子、これからしばらくの間、みんなで大冒険が始まるのよ。わたしたちで、ゼロから物語を創っていくの。淋しいこともイヤなこともあるだろうけれど、その代わりに、たくさんたくさん、素敵な未来が待っているわ。お父さまもね、きっとそう。響子と離れたくはないから、悲しいお顔になったの。だけど大丈夫、日本に帰ったら、また学校に行って、お友だちとお遊びして、お勉強をして、それからみんなでテーブルを囲んで、温かいスープを飲みましょう。そうよ、大丈夫、大丈夫ですからね。あなたはなんにも心配する必要はないのよ。きっと、ずっと大丈夫ですからね…」
お母さまの言葉は子守唄みたいで、わたしはいつの間にか眠ってしまった。