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どれくらいの時間が経ったのだろう。ガタゴトと揺れるトラックと、静まり返った車内は蒸し暑く、時折、跳ね返った石が幌にあたって、風船が割れるような音がして、わたしは目を覚ました。
お母さまの胸に背をもたれながらも、かなりの時間眠っていたらしく、幌の隙間からは陽が差し込んでいる。
寝たふりを続けながら、薄目で周りを見渡すと、かなりの人たちが座り込んで眠っていることに驚いた。
お母さまのお友だちの富士子さんが、不安げな顔で隣の男の人と話をしている。
富士子さんが幼く見えるのは、ほっぺたのえくぼのせいだろうと、わたしはずっと思っていた。
だけど、今の富士子さんにはえくぼはなくて、とても悲しそうな目で男の人を見ている。
震えるようなちいさな声が、わたしには聞こえていた。
「軍人さん達は、私達を見捨てたの?」
「いや、俺にもわからない。何がどうなってんだか…」
「進軍してきたんでしょ。アメリカ軍が…日本は負けるの?それとも負けたの?」
「いや、それが違うらしいんだ。逃げ出した連中が言ってたんだがね、どうやらソヴィエトの奴らが河を越えて攻撃してるみたいなんだよ」
「ソヴィエトが何故?逃げ出した連中って誰なの…私達は何処へ向かうの?」
うろたえる富士子さんの質問に、男の人は黙ったままで、なんだか気の毒になった私は、わざと寝返りをうった。