テラーノベル
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セレスティア魔法学園の星光寮は、
ー永遠の果樹園へ行ってくれ。あの果実をすべて取り込み、戦争の準備を整えるんだー
父の偽りの笑顔、
毒林檎の実験、
ゼンの死。
あの不気味な愛情の裏に、冷徹な意図があった。
レクトのフルーツ魔法——
「創造」の域に達した力——
は、父にとって兵器でしかない。
「行けば、父さんが認めてくれるかもしれない……
でもそれは、家族としてではない……!」
家族への渇望と拒絶が、胸の中でせめぎ合う。
ドアが軽くノックされ、
ヴェルの声が響く。
「レクト、いるよね? 朝から暗い顔してないで、話そうよ!」
彼女の明るさが、いつもなら心を軽くする。
レクトは深呼吸し、ドアを開ける。
ヴェルの後ろには、ビータとカイザが立っている。
ビータの冷静な目、カイザの陽気な笑顔。
仲間たちの気配に、レクトの心が少し温まる。
「みんな……ちょっと、話したいことがあるんだ」
レクトはつぶやき、仲間たちを部屋に招き入れる。
木製の床がきしみ、窓から差し込む光が部屋を明るくする。
レクトはベッドに座り直し、
父との朝食会の詳細を打ち明ける。
毒林檎の実験、永遠の果樹園への誘い、父の不気味な愛情。
「父さんが、俺の魔法を戦争に使いたいって。
永遠の果樹園に行けって言うけど
……行ったら、俺はもう一生ただの道具になる気がする」
レクトの声は震える。
ヴェルが目を丸くし、叫ぶ。
「戦争!? レクト、絶対行っちゃダメだよ!
パイオニアはレクトを家族として見てない!」
カイザが拳を握り、
「フルーツで戦争とか、ふざけてんのかよ……!」と叫ぶ。
ビータは静かに言う。
「……永遠の果樹園は危険だ。果実は魔法を強化するけど、心を蝕む。あそこに行くのは、危険すぎる」
レクトは目を伏せる。
「でも、行かなければ、父さんとの関係は……家族は、ずっとこうなのかな。
昔みたいに、魔法を個性として笑ってくれる家族が欲しいだけなのに……」
昼過ぎ、
レクトはヴェル、ビータ、カイザと共に講堂へ向かう。
セレスティア魔法学園の講堂は、ステンドグラスから色とりどりの光が差し込み、
木の長椅子が整然と並ぶ。
フロウナ先生とアルフォンス校長が待っている。
フロウナの優しい笑顔が、レクトの心を和らげる。
アルフォンスの落ち着いた眼差しは、まるで全てを見透かすようだ。
「フロウナ先生、校長……実は、父さんが」
レクトは一気に事情を説明する。
パイオニアの偽りの愛、
毒林檎の実験、
永遠の果樹園への誘い。
フルーツ魔法が「創造」の域に達したことも、
隠さず話す。
「父さんは、俺の魔法を兵器として使いたいみたいです。
行くべきか、行かないべきか……分からないんです」
アルフォンスは顎に手を当て、深く頷く。
「フルーツの創造……
当初は『魔法のバグ』、
つまりマジカル共鳴かと思ったが、違かったか。
禁断の果実によって、レクトの魔法の根本を知れた。
だが、それは兵器として使う力ではない。
レクト、君は自分の道を選ぶべきだ」
フロウナが頭を撫でる。
「レクト、君は君自身でいいのよ。
サンダリオス家が何を企もうと、君には仲間がいる。」
彼女の声は温かいが、
果物アレルギーで軽く咳き込む。
レクトは胸が締め付けられる。
「ありがとう、先生……」
講堂のステンドグラスが、
初夏の光を虹色に散らす。
レクトの心は、行くべきか行かざるべきかで揺れ続ける。
父の笑顔が、甘い毒のように胸に刺さる。
もしあの笑顔が、愛情が、
万が一本当の愛情だとしたら、
その手を掴みたいからである。
夕暮れ、レクトはヴェルを屋上に誘う。
星光寮の屋上は、グランドランドの地平線を一望できる。
夕陽が赤く染まり、遠くの永遠の果樹園の暗い影が不気味に浮かぶ。
木製ベンチに座り、
レクトはつぶやく。
「ヴェル、俺、行くべきかな? 永遠の果樹園。行けば、父さんが認めてくれるかもしれない」
ヴェルが勢いよく言った。
「絶対ダメ!
レクト、行ったら取り返しのつかないことになるよ!
パイオニアは、レクトを家族として見てない。兵器としてしか見てないの!」
彼女の目は潤み、嫉妬と保護欲が混じる。
夕陽が彼女の髪を赤く染め、風が制服の裾を揺らす。
「でも、行かなければ、何も変わらない。昔みたいに、家族で笑える日々が欲しいだけなのに……」 レクトの声は震える。
ヴェルはベンチに座り直し、レクトの手を強く握る。
「自分のことを大事にしてよ……!
カイザ、ビータ、私……ここにいるじゃん。
みんなレクトが心配なんだよ!?
レクトのフルーツ魔法は、個性だよ。兵器なんかじゃない」
その言葉が、レクトの心に深く響く。
父の偽りの愛とは違う、ヴェルの本物の温もり。
その温かさから、
父の愛が偽物だということがハッキリ分かった。
ゼンの死、毒林檎の謎、すべてを乗り越えるには、仲間が必要だ。
「……分かった。、、、、俺、父さんの道具にはならない……!」
ヴェルが笑顔で頷く。
「よし! それでこそレクトだ!」
夕陽が二人の影を長く伸ばし、
屋上の木々がざわめく。
遠くの永遠の果樹園の影が、戦争の足音を予感させる。
翌朝、レクトは寮のベッドに引きこもる。永遠の果樹園に行かないと決めたが、父の不気味な笑顔が頭から離れない。
ベッドのシーツを握りしめ、目を閉じる。
「これでいいんだ……、俺の魔法は、父さんのためには使わない」
ドアがノックされ、ヴェル、ビータ、カイザが入ってくる。
「レクト、隠れてていいよ。私たちが守る!」
ヴェルが胸を張る。
カイザが電気魔法で指をパチンと鳴らす。
「パイオニアが来ても、俺の電撃で追い返すぜ!」
ビータは冷静に言う。
「時間遡行で、パイオニアの動きを監視してる。
……こちらに来ている、近づいたらまた連絡する。」
そこに、フロウナ先生とアルフォンス校長も現れる。フロウナが柔らかく言う。
「レクト、安心して。私たちもここにいるよ。君は一人じゃない」
アルフォンスは記憶の鏡を手に、厳かに言う。
「サンダリオス家が何を企もうと、この学園は君を守る」
レクトはベッドから顔を上げ、仲間たちの顔を見る。
ヴェルの保護欲、ビータの決意、カイザの笑顔、フロウナの優しさ、アルフォンスの威厳。
父の偽りの愛とは違う、本物の絆。
「ありがとう……みんな。本当に」
部屋の窓から、初夏の風が吹き込む。
外の木々がざわめき、
グランドランドの地平線が朝陽に輝く。
レクトはシーツを握り、決意を新たにする。
「俺、逃げない。自分の魔法を、信じるよ」
昼過ぎ、星光寮に不穏な気配が漂う。
窓の外で、黒いローブの影が揺れる。
パイオニア・サンダリオスだ。
隣には、ミラ・クロウリー。
鋼の魔法をまとい、冷たい目で寮を見上げる。
「さきほど、
時間遡行の魔法の気配を感じました。
アイツら私達が寮に向かってることに気づいたかもしれません。」
パイオニアの声が、優しく、だが不気味に響く。
「別にいいさ、すぐに終わるから」
寮の上空から迫ってくる。
ヴェルがドアを固く閉め、叫ぶ。
「来るな! レクトは行かないって決めたんだ!」
だが、パイオニアの炎の魔法が寮の外壁を焦がし、赤い炎が空を切り裂く。
ミラの鋼が窓を切り刻み、ガラスが砕ける音が響く。
鋼の刃が朝陽を反射し、鋭い光が部屋に差し込む。
「レクト、父さんはお前を愛してる。
永遠の果樹園で、共にグランドランドの未来を築こう」
パイオニアの声は甘い。だが、レクトには分かる。
その裏の冷徹な意図。
ミラが鋼の鎖を放ち、寮のドアを破壊。
鎖が蛇のように床を這い、レクトの足元に迫る。
レクトはベッドから飛び起き、叫ぶ。
「やめて! 俺は行かない!」
フルーツ魔法を起動し、
巨大なオレンジを創り出す。
オレンジが部屋を埋め尽くし、鋼の鎖を押し返すが、パイオニアの炎が果実を焼き尽くす。
焦げる果肉の匂いが部屋に広がり、レクトの視界が揺れる。
「くそっ!」
パイオニアとミラの連携は完璧だ。
鋼の鎖がレクトの手首を絡め、炎の熱が逃げ道を塞ぐ。
ミラの冷たい目が、レクトを貫く。
「抵抗しても無駄よ。サンダリオス家の命令だ」
レクトはフルーツ魔法でレモンを創り、
果汁を爆発させようとするが、
炎に飲み込まれる。
「やめろ、ミラ! 父さん!」
パイオニアが近づき、優しく微笑む。
「心配するな、レクト。父さんが導いてやる」
鋼の鎖がレクトを縛り、
炎の熱が抵抗を許さない。
レクトは寮から引きずり出され、
馬車へと連行される。
「父さん、なんで……!」
叫びが、昼の空に虚しく響く。
ヴェルが叫ぶ。
「レクト!」
彼女は震度2の魔法を放ち、地面を揺らす。
寮の床が揺れ、窓枠が軋むが、馬車は遠ざかる
。フロウナが風の魔法で追おうとするが、
果物アレルギーで咳き込み、膝をつく。
「くっ……レクト、ごめん!」
アルフォンスが記憶の鏡を掲げ、パイオニアの動きを追跡。
「永遠の果樹園へ向かっている! 急げ!」
ビータが時間遡行の魔法を準備し、
「過去の動きから、ルートを特定する!」
と叫ぶ。カイザが電気魔法を放ち、
馬車の車輪を狙う。青白い電撃が空を切り、
ミラの鋼の盾に弾かれる。
「ちくしょう、待ってろ、レクト!」
仲間たちは総動員で都心の街並みを駆ける。
初夏の市場を抜け、
果物売りのカートを倒し、オレンジやブドウが石畳に散らばる。
馬車の蹄の音を追い、
子供たちの驚く声、
馬車の鈴が響く。
ヴェルの目には涙が浮かぶ。
「レクト、絶対助けるから! 待ってて!」
馬車の中で、レクトは鋼の鎖に縛られ、
パイオニアを睨む。
「父さん、俺を道具としか思ってないんだろう、愛してるなんて絶対嘘だ……!」
パイオニアは微笑む。
「愛する息子よ。お前の力は、グランドランドを救う。永遠の果樹園で、共に未来を築こう」
なにもきいていない
「……っ」
遠く、
シャドウランドの暗雲が広がる。
永遠の果樹園が、レクトを待っている。
仲間たちの足音が、都心の石畳に響く。戦争の足音が、静かに近づいている。
そして、
永遠の果樹園に、到着する。
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