テラーノベル
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暗く湿った洞窟の奥を、レイはひたすら歩き続けていた。何度も滑り、時には足をくじきそうになりながらも、少しずつ、わずかな光に向かって進む。
「シルフ、まだ出口見えないのかな……?」
(焦るな、レイ。洞窟というのは、出口が近づくほど空気が軽くなるものだ。息苦しさが和らいできただろう?)
「うん、確かに少し息がしやすくなった。でも正直、こんなに暗い場所はもうこりごりだよ」
(……人間は本来、陽の下で暮らす生き物だからな。それにしても、お前、よくここまで歩いてきたな)
「ありがとな。シルフがいてくれたおかげで、どうにか気がまぎれたよ。1人だったら途中で挫折してたかも」
(ふ、素直になったな。初めの頃のお前が懐かしい)
「いやいや、今だって内心びびってるからな!?倒れそうになった時、何度帰りたくなったか」
(だが、お前は前に進んだ。偉いぞ)
「なんだよ、褒められると逆に照れるっての……」
冗談を言い合いながらも、レイの肚はすでに空っぽで、足元はふらふらだった。
それでも、細い一筋の光を見たとき――心臓が跳ねた。
「……見ろよ、シルフ!前から光が……もしや……」
慎重に足を進める。出口だ――本物の出口。 低い天井をくぐり抜けると、目に刺さるほどの眩しい陽光がレイを迎えてくれた。
「うわっ……!まぶしい……」
(やったな、レイ。とうとう洞窟を抜けたんだ)
「信じらんねぇ、ほんとに外だ……青い空だ……!」
しばらく出口で立ち止まり、じっと空を見上げる。肌を撫でる風の感触。
だが、ふと視線を下ろしたレイは、その先の光景に絶句した。
「…………はぁ」
洞窟の出口の先、見渡す限り、深い森が広がっている。
木々はどこまでも高く、昼なのに地面は薄暗く、遠くまで続く獣道が見えた。
(どうした、レイ?)
「いや……さ。せっかく洞窟を抜けたのに、今度はこれかよ……森って、めっちゃ広いじゃん。出口って言うより、新しい始まりって感じだな……」
(外は自由だが、危険も多い。それに、森には人間だけではない存在も住んでいるだろう)
「……あー。…また苦労しそうだなぁ、俺。正直ちょっと休みたい……」
(休みたいと思うときは休めばいい。だが、“出口”はどこにでも繋がっている。今のお前ならば、きっと進んでいけるさ)
「シルフ、元気だなぁ……まあ、入った時よりだいぶマシだけど。はぁ……腹減った……森に飯とか落ちてないかな」
(ふふ、森には新しい出会いや発見もある。ほら、顔を上げろレイ。“見たことない世界”がお前を待っている)
「……そうだな。せっかく生き残れたんだ。やるしかねえか、俺!」
ゆっくりと森の空気を吸い、レイは一歩、また一歩と歩き出す。
背後の洞窟、その暗がりとはもう違う、まぶしくも不安な新世界の入り口――
少年はため息を一つつき、でもその目だけは、ほんの少し前を向いていた。
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