テラーノベル
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森の入口で足を止め、レイはあたりを見回した。 枝の擦れる音、鳥の鳴き声――危険な気配はなかったが、不安そうに腕を見下ろす。
「くぅ…。森の中ってのは、予想以上に心細いな。武器がないと絶対ヤバい……村に行って武器、手に入れたいなぁ」
(ふむ、その必要はないかもしれんな、レイ)
「は?どういうこと?」
(君なら作れる。君自身の力、黒煙を使って、最高の武器を)
「……マジで?そんなことできるのか?」
(“できる”ではない、“やる”のだよ。まずは黒煙を炭化させ、個体として形を保つこと。それができれば、あとは君の想像力次第さ)
「そ、想像力……。とりあえず、黒煙を固める練習ってことか?」
(そうだ。イメージするんだ。“この煙は、刃物のような硬さになる”と強く念じてみろ)
「うーん……硬く、刃物のように……」
レイは炭化した腕を見つめ、ゆっくりと黒煙を解き放つ。
煙はふわりと宙に漂うが、形はあいまいで、すぐ消えそうになる。
「ダメだ、固まる気配がないぞ……!」
(焦らず、何度も繰り返すんだ。“形を保つ”ことを最優先に)
「形、形……。くそっ、まるで子どもの粘土細工みたいだ……」
黒煙を意識し、手のひらの上に留めようと必死に集中する。何度も試みるが、煙は形を保たず指の間から抜けていく。
「うまくいかない……力もすぐ切れるし……」
(疲れたら、少し休め。ただ、君の中に“イメージ”が薄いと、煙の核が散ってしまう。今まで見たことがある武器を、詳細に思い浮かべてごらん)
「武器……短剣なら、どっかで何回も見たことある。小さくて軽いやつ。……よし」
再び黒煙を右手に集中させた。「短剣の形」を頭の中で何度もなぞる。
「短剣……刃が鋭くて、真っ黒な柄……絶対に折れないような、硬いやつ……!」
すると、黒煙がゆっくりと凝縮され、棒状になっていく。しかしまだ形は曖昧だ。
レイは何度も何度も失敗する。煙が“重さ”を持ち始めると、すぐ形を保てなくなってしまう。
「む、難しい……せっかくここまで来たのに!」
(負けるな。形を急に決めるのではなく、まず密度だ。空気より重いものを作るイメージに切り替えろ)
「……空気より重い……。もっと詰める感じ……!」
汗をかきつつ、今度は黒煙をぎゅっ、と圧縮する。
煙がだんだん黒く、分厚くなり、手の中に実体が現れてきた。
「……おお!?ずっしりしてきた……!」
(そのまま、刃を形に――“切れ味”だけではなく、“自分を守る”願いもしっかり乗せて)
「……うん……守る、切る……短剣だ。短剣!!」
目の前に現れたのは、漆黒の短剣。
刃の部分は金属のように光り、ふくよかな手ごたえがある。レイはもう一度集中し、左手にも同じように黒煙を集める。
「もう一本……二本持てれば戦いやすいはずだ……!」
しばらくして、両手に一振りずつ、黒い短剣が生み出された。
レイは半信半疑のまま、刃先で近くの石をつつく。
「す、すげえ……!これ、本物みたいに硬い……いや、それ以上かも……!」
(その武器は“アビス・ブレイド”だ。君だけの、黒煙で鍛えた刀身。それだけでなく、不要なときは炭化した腕と融合して吸収し、再び黒煙として使える。まさに自在の武器だ)
「ってことは、こうやって……短剣を腕に……うわっ!本当に煙に戻った!」
(その通り。必要な時だけ形にし、不要な時は体内に吸収。誰にも奪われない、お前だけの武器だ)
「……信じられない。俺が……自分の力で、武器を作れるなんて。これなら、どんな敵が来ても……!」
(焦らず使うことだ。そして、どんな時でも“自分のための武器”であることを忘れるな)
「……うん。ありがとう、シルフ!これでまた、一歩進めそうだ!」
レイは両手に生まれた漆黒の短剣――“アビス・ブレイド”をしっかりと握った。
それは、不安な森の闇を進むための、確かな希望の形だった。
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