空の旅は楽しい。そう思えたのも最初のうちだけで、今は吹き付ける風に耐え、寒さに耐えて震えてるばかりだ。なのに景色だけは憎らしいほどに綺麗なまま流れている。
「すみません、寒いですよね。良かったらこれを着て私を風避けにしてください」
そう言って荷物の中から厚手のコートを渡してくれる。
「あああ、ありがどおお」
震えて変な言葉になってしまう。
「ダリルが私任せにしたのは、このせいもあるんですよね。ヒトには少し辛いものですから。フィナさんも辛ければ遠慮なく私にしがみついててくださいね」
はい、遠慮しません。言われてソッコーでしがみつく。齧り付きそうな勢いで。
ロズウェルさんが優しく笑う。
不思議とさっきまでの風や寒さが和らいだ。肉だるまのダリルさんと違ってスレンダーなロズウェルの背中にそんな効果があるなんて、エルフしゅごい。
「まあ、それは確かにその通りですね」
ロズウェルさんのひとりごとは今回はよく分からなかった。
オーバーオールが似合わないエルフにしがみついてからは快適な空の旅で、お腹が鳴る頃には目的の山の麓に到着した。少し先に木々の生い茂るのが見える。
「ありがとう。じきに戻るから、今回はまだ待っててください」
そう言ってピヨピヨに声を掛けて座らせる。エルフさんしゅごいのにファッションとネーミングのセンスは壊滅的のようだ。
「悪くないと思っているのですがねー」
そう言いながらロズウェルさんは持ってきていたであろうハーブティーを差し出してくれる。今回は実家秘伝の糖蜜を入れてくれたらしい。濃厚な甘さが優しくて美味しい。
そう言えば道具と場所だけは聞かされて辿り着いたけど何を採取するのか聞いてない。
「ここで何を採取するの?」
「この先にある木から弓の材料を切り出すのですよ。斧は割るために、鉈は皮を剥ぐためにですね」
そう言うロズウェルさんはお店の時の弓を持っている。実にエルフっぽい。わたしきこりっぽい。
そんなことを思っていたわたしをロズウェルさんは優しく見つめ微笑む。わたしも釣られて微笑む。視線を絡ませたふたりの間に糖蜜のような甘い時間がながれる。
ロズウェルさんはおもむろにわたしの頭に帽子を載せた。柔らか素材のぐるりと短いつばのついたみどりの帽子に綺麗な茶色い羽根がついている。きこりっぽさが加速した。
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