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月子が、ほのかな思いに照れながら、台所で冷めた味噌汁を温め直していると、やけにガタガタ大きな音がした。


何事かと音がするお勝手を見ると、ガラス戸をこじ開け、亀屋の寅吉が入って来ていた。


「ごめんよ!月子ちゃん!」


騒がしさを詫びる寅吉の後ろから、女房のお龍が顔を出して頭を下げる。


「ほんと、ごめんね、朝っぱらから。でもねぇ、これじゃあさぁ……」


意味深に言うお龍の視線をたどると、寅吉に背負われた二代目の姿が……。


「二代目さん?!」


月子は思わず叫んだ。


うっせぇ、ふざけんなっ、と、ぼやきつつ、ひどく酔った姿で二代目は寅吉に背負われていた。


「祝言なんて、認めねーぞっ!!俺は、大家だぞっ!」


寅吉の背中で二代目が吠える。


「……こうなのよ。まいったねぇ」


顔をしかめきって、お龍は、経緯を語り始めた。


その間も、二代目は、うっせぇ、大家だぞっと、ぼやき続け、ついに眠ってしまった。


「まあ、立ち話で収まるもんじゃないから……月子ちゃん、腰かけよう。で、お前さん、二代目、寝かしつけてきなよ」


「おお、俺も背負い通しってのもたまんねぇや。布団に寝かしてくるわっ」


寅吉は、勝手知ったる我が家のごとく、酔いから眠り込んでしまった二代目を背負って居間へ向かって行った。


当然のごとく、岩崎の声が響き、なだめる寅吉と言う具合で、居間は揉めている。


「まっ、あっちは、あっちということで」


お龍は板の間に腰かけ、呆然としている月子を手招いた。


「と、いうことでさあ。まあ、二代目は、朝っぱらからうちの店に飲みに来ることはよくあるんだけど……月子ちゃん、京さんと何かあったのかい?なんで、二代目が二人の祝言は認めないって荒れちまったんだろう?」


どうも、岩崎の独演会について沼田と皆で話した後、一緒に帰った二代目は、亀屋へ足を運んだようで、そこで、ベロベロになったということらしいが、寅吉もお龍もなぜ、そこまで酒を飲むのか、さっぱりわからない。


何より、二代目をどうにかしたい。どうやら岩崎と関連があるようなので、話を聞くついでに、ここへ二代目を連れて来たとか。


「女将さん。それで、どうしてうちに?!亀屋で酔いが醒めるまで寝かせておいたらよいだろう!」


不機嫌丸出しの岩崎が台所の入り口に立っていた。


「まあまあ、京さん、仕方なかったんだよー」


後ろで、寅吉が岩崎をなだめている。


「だからっ!なんで、二代目を連れてきた!」


「まあ、そうなんだけど、連れていくところがなくってさ。なんだか、京さんとこと関係ありそうだしねぇ、なら、こっちで話した方がいいんじゃないかと思って」


お龍は、困まり顔をしつつ、


「祝言……挙げられるのかい?」


二代目があれだけ荒れるのだ、何かあるのではと、お龍は京介へ尋ねた。


岩崎も、一瞬眉を潜める。


「問題はないが?どういうことだ?」


「まあ、お座んなさいよ」


お龍の言葉に岩崎も月子も板の間に、腰を下ろした。


「おっ、茶いれるわっ」


これまた、寅吉が小まめに動き出す。


「京さんも、月子ちゃんも、二人とも祝言に異存はないんだろ?岩崎の男爵様だって反対していない。そもそも、祝言を挙げるために、見合いした訳だし……」


お龍の言葉に、岩崎は、とうぜんだとばかりに頷く。月子は、なにがなんだかと、話について行くだけで精一杯だ。


「でさぁー、二代目ったら、十六の娘が二十も離れたおっさんと夫婦になるのかよおー!ゆるせねぇー!とか、言ってたんだよ?!ってことわっ!」


お龍は、くくく、と、肩をゆらし笑った。


「二代目ってさぁ、月子ちゃんに気があるんじゃないのぉ?そんで、焼いてんのさぁ」


「はあ?!お龍!お前、何言ってんだ?!男爵家と大店の縁組だぞぉー!そんな、ばか言うんじゃねぇ!」


寅吉が裏返った声をだして驚くが、岩崎は、やけに神妙だった。


「……ありえる。ありえる。月子は、渡さない!」


言って、岩崎は、すくっと立ち上がる。


拳を握りしめ、わなわなと震えている。


「あれまぁ、なんだ、別に心配するこたぁーなかったね、お前さん」


「おう!そうだなぁ。京さんが、やる気なら、別にいいさ!なっ?月子ちゃん?」


なっ?と寅吉に言われても、月子に返す言葉はなく、なんの事なのか、やはり話が掴みきれない。


ただ、非常に気まずいのは確か。もじもじしながら、俯くしかできなかった。


「酔いが醒めたら、二代目もあきらめるよ」


「おお!なるほど、忘れるためのやけ酒だったと!」


わはははと、寅吉夫婦は大笑いしているが、岩崎は、変わらず、怒りを発しながら立っていた。

麗しの君に。大正イノセント・ストーリー

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