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第十四話「見えない毒に舌鼓を」
🔪白い嘘の香り
喫茶店《トリック・シロップ》――
淡い紫色の光に照らされた空間。店内にはジャズが流れ、空気は重く甘い。
その中央のテーブルに、彼女は座っていた。
透き通るような肌、無表情な黒目、きっちり結い上げられた銀髪。
白いシャツと黒のベスト、金縁の眼鏡――完璧な虚構の作り物のような佇まい。
彼女の名は、ミトラ。
手元のノートには、こう書かれていた。
「この客は毒入りの紅茶を飲んで死ぬ」
ミトラは、カップに視線を落とし、にっこりと笑った。
「……これで、本当になる。」
🔪スケアリーの実況「嘘をソースにした前菜」
「っふぉ~~~~~っほほほッ!!!」
スケアリーはカウンターの上で狂ったように転がっていた。
テーブルに片肘をつきながら、グラスの中のルビー色のワイン(毒入り)をくるくると回す。
「いやぁ、きたねぇ……最高の**“虚構料理”**だよコレは!」
「料理人が”嘘”を”調味料”として使うなんて、前代未聞!!!」
「例えばね、普通のシェフは『これは美味しい』って思って作るでしょ?
でも彼女は違うんだ――」
「“美味しい”って書いたから、“美味しくなる”。」
「“死ぬ”って書いたから、“死ぬ”。」
「もうこれは、“調理法の哲学的暴走”だよ!!!!」
🔪現実をねじ曲げる筆跡
ミトラは、もう一度ノートを開く。
「この男は、10秒後に喉を押さえて倒れる」
そのページの横に、笑顔のスタンプのような落書きを描き足す。
目の前の男は、談笑しながら紅茶を飲んでいたが、
――その直後。
ゴフッ。ゲホッ!!
「な、なん……だ……?」
男は自分の喉を押さえ、椅子から転げ落ちた。
呼吸が乱れ、目が虚ろになる。
ミトラは静かに呟く。
「……そう書いたから、そうなるの。」
🔪スケアリーの食レポ「言葉のフルコース」
スケアリーは、もはや立ち上がっていた。
前菜のトリュフ、スープの中の嘘、メインは言葉の切り刻み。
「彼女の作る料理には、“レシピ”がない。
“言葉”こそがナイフであり、オーブンであり、火力なんだよぉ!!!」
「たとえばさ、“この肉は柔らかい”って書けば、固い肉でも柔らかくなるんだよ!!
つまりこれは――」
「現実を捏ねくり回す“文字の料理”ッッ!!」
ユリウスが思わずつぶやく。
「あいつ……現実を“書き換えてる”のか……?」
スケアリーは、ニヤリと笑った。
「うんうん、これは“言葉の魔術師”じゃないよ。
これは――**“虚構のフルコース”の料理人”。」
🔪ミトラの呟き
男が床に倒れて痙攣する中、ミトラは最後の一文を書く。
「死体は30分後に誰にも気づかれず片付けられる」
そしてペンを置くと、グラスをゆっくりと口に運び、紅茶を一口。
「……これで、完成。」
一度も振り返らず、彼女は店を出ていった。
まるで、何一つなかったように。
次回 → 「嘘と真実のフランベ」