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「愛している」
口に出すつもりはなかった。未だつぼみの桜を眺めるお前の背中がいつもより少し、小さく見えた。それだけだった。声が漏れた瞬間、私の目からは涙がこぼれていた。見られる前に取り繕わなければ、そう思ったのにいつもお前は。くるりとこちらを向いたお前の顔は、驚きと好奇心と、沢山の感情が綯い交ぜになった顔だったな。普段は鈍いくせにこんな時だけ行動が早いのが本当にお前らしくて気に入らない。私に手拭いを渡して、その後すぐに後ろを向いて見ないようにする不器用な優しさが嬉しいのに痛くて、「忘れてくれ」としか言えなかった。
桜のつぼみが咲いた頃、私たちは忍術学園を卒業した。手ぬぐいを返す暇はなかった。きっとお前はあの時のことなど忘れているだろうな。私は何度転生したって忘れてやらんがな。
私があの手拭いを返すのは私が死んだ時だ。黒に見えるその手拭いは光に透かすと少し紫色で、ああそうだった、お前が私の髪色のようだとか言って買ってきたんだったか。
あと三十秒で、私の手持ちの火器は全て爆発する。どうせ致命傷、ここまで来たら全員巻き込んで死んでやろうじゃないか。完璧な私の完璧な最期だ。お前にも届くだろう。未だ持ったままの手拭いは、遺書と共にお前に送り付けてやる。そうすれば、お前はあれを見る度に私を思い出して泣いてくれるだろう?老け顔をぐしゃぐしゃにして泣く様はさぞ愉快だろうな。
でも。
私の訃報を聞いてもそれ以上眉間の皺を増やさないでくれよ。本当は知らないでいて欲しいんだ、私の最期など。手紙が来ても破り捨ててくれ。手拭いを見つけても何故ここにあるのか思い出さないでくれ。私の死など知らないでいて欲しい。
ああどうか、どこか私を思い出さないところで生きていてくれ。
「愛しているよ、文次郎。」