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雲がくれにし夜半の月かな
逢瀬は十年ぶりだった。戦場から少し離れた森で、片腕の無い、傷まみれの男に声をかけられた。
月明かりが差し込んでいなければ、俺は気づかなかったかもしれない。
「何年ぶりだ、留三郎。」
元恋人は、犬猿の仲だった文次郎は、木にもたれかかって、俺にそう声をかける。嘲笑を含んだその声は、学園にいた頃よりも少し掠れていて。ああ、時が経っているのだと、俺に実感させた。
「他の奴らには会ったのか」ずっと気になっていたことだ。あいつらは今どうしているんだろうか。
「仙蔵と伊作と、小平太には会った。長次は、誰も見てないらしい。」
「そうか。」
「髪、伸ばしたんだな。小平太かと思った。」
「あんなにボサボサなつもりは無い。」
「それもそうだな。」
短い会話が終わると、ずるずると文次郎がへたりこんだ。
ああ、もう終わりなのか。
半分の腕から、傷から、どくどくと血が流れ出ていく。
刺さった毒矢から、少しずつ毒が回る。
ひゅう、ひゅうという呼吸音さえも小さくなっていく。
文次郎に、じわじわと死が迫っている。
俺が伊作だったら、この傷も治せてやったのかな。
「文次」
「潮江文次郎」
傷口に触れぬように、そっと、抱きしめる。
「お前の体が冷え切るまで、ここに居てやる。」
文次郎が、俺の背中に片手を置いた。
「はは、そうか、それなら、さみしく、な、い」
文次郎の力が、ふ、と抜けた。と同時に、噛むように接吻を送った。痛みと同時に血の味がしたのがおかしくて、おかしくて。なあ。
「まだ愛してるよ。」
急に降り出した雨は、俺たちの体温を奪っていく。
無意識に、もう一度抱きしめていた。
今度は、つよく、つよく。
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