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それは、キョウが隊士になったばかりの事だった。
「……気配」
辺りを見渡す。
まだ夢現つな気もするけど、確かにそこに何か居る。
灯籠の灯りを付ける。
キョウ、目元は影となり、この世のものでは無いような、異質な雰囲気を出した。
「チャキ」
いつも布団の中に忍ばせてある日輪刀を取る。
そして、何も無いように見えた空間を一気に斬った。
「ザッ」
塵になって消えて往く鬼の体が現れた。
(またか……)
まだ外は暗い。
どうも立ち上がる事もできないから、敵を引き寄せて斬るしかない。
視界がぼやけてゆく。
横になり、ぼんやりと空を見つめる。
あとどれだけ保つんだろう。
もう無理かな……
「ゴフッ」
慌てて手で口を押さえる。
真っ赤な血、腕を伝って、落ちていく。
これ相当酷いかも。
どうしよう。
そう思った時、とある記憶が蘇った。
『血をやるんだと言うなら、心臓をくれ!』
あの日初めて口の悪い言葉を言った。
あの日初めて声を荒げた。
『なかなか面白い小娘が居るものだ』
『いいだろう』
そのあとは覚えていない。
あの若い男の顔も覚えていない。
というより思い出せない。
あれ、でももしかして……
血まみれの手に力を込めてみる。
なんとか大きく息を吸う。
『血鬼術』
その言葉が思い浮かんだから。
自然と体に力が籠る。
「辛くない……?」
普通に立ち上がれる、苦しくない。
もしや……!
部屋の隅にある鏡台の前へ行く。
頬に手を当てて、呆然と鏡に映る自分を見つめる。
淡い橙色の瞳は、もっと濃く、赤色に近く色変わりしていた。
目の中は……
ああ。
私はもう“人間じゃない”んだ。