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Never, Forever

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ララバイ#1〈Green×Pink〉

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2023年03月06日

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Side 桃


「なあ…もうちょっと食べないとダメだよ」

テーブルの上の夕食は、ほとんど手が付けられていない。

いつかは少食な樹に言っていたこんな言葉を、ほとんど正反対な慎太郎に言う日が来るとは思ってもいなかった。

「…病院食は、食う気になれないんだよ…。食欲ないし…」

弱々しく告げるその姿は、前よりも細くなっている。

しかも貧血のために肌も白い。俺よりも透き通っているくらいだ。

アウトドアが好きだった慎太郎の影は、どこにもない。

「ゼリーくらい食べな? ほら、ぶどう味だよ」

お節介と思われるだろうが、スプーンに取り口に近づける。渋々食べてくれた。

「美味しい?」

こくんと首が動く。「そっか」

何とかゼリーを食べ終えると、眠たいと言って横になる。

「きょも…」

布団から右手を出してきた。両手で握ってやると、満足そうに目を閉じる。

一方の俺は、もっとがっしりしていたはずの手に少し悲しくなるばかり。

その手首には、紙のリストバンドが付いている。そこに記された『再生不良性貧血』の文字を見て、心がぎゅっとなる。

しばらくして、慎太郎は静かな寝息を立て始めた。

ふと窓の外を見ると、しとしとと桜雨が降っている。雨音はほとんどしない。やはり静かだ。

もうすぐ満開の時をむかえようとしている中庭の桜は、露をまとって瑞々しい。

それが病室の明かりに照らされてぼうっと淡く光っているのが幻想的に映る。

眠る彼の横で、口を開く。

「戻れない…時を振り返る……流れる時間を…止めて…」

幾度となく歌ってきた曲の一節をそこまで独唱したところで、声を止める。また手を握りなおした。

「My friend…いつかは辿り着くよ…夢の世界に……」

ハモリがないことが寂しい。そしてサビを歌おうにも、ソロになってしまう。

やはりこの曲は雨に似合うな、と思う。でも雰囲気としてはもっと激しい雨のほうがいいかもしれない。

目を覚ましたら好きな曲を歌ってあげよう。

でも今日は遅いから、また明日。


続く

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