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「……ははっ」
側から見たら情けない光景だ。
僕なんかより一回りも小さいのに、彼女は僕なんかよりよっぽど大人だ。
しかも僕のことも守ってくれたんだから、色んな意味で負かされた気分だ。
自分自身の不甲斐なさも相まって、僕は思わず吹き出してしまった。
対して仮面少女は、仮面のマークを表すように首を傾げる。
「私、何かおかしなことを言いましたか?」
「いいや。君みたいな女の子に説教されるなんて思いもしなかったから」
「……そういうもの、ですか」
「うん。そういう君は、どうしてここに?」
「私は……使命を果たすため」
「使命?」
「はい。人を救うこと、です」
「なんでそんなことを……?」
「……分かりません。でも、私はそのために生まれたんです」
妙に達観したような物言いをする仮面少女。
一体なぜそんな大層な使命を、背負っているのだろうか。
ただの思い込み……というわけではないか。
僕が無駄に考察を重ねていると、仮面少女が僕に引き続き話しかけてきた。
「……あの」
「ん?」
「貴方のことは、どう呼べばいいんでしょう?」
「あぁそっか。えっと……」
思えば、未だに自己紹介をしていなかった。
僕は、自分の名前を言おうとした。
でも、それはやめることにした。
自分の名前を呼ばれるのが、この時は嫌だったからだ。
「ごめん。今はあんまり言いたくないかな」
「ではどう呼べば?」
「……何でもいいよ」
「それじゃあ、お兄さんと呼ばせていただきます」
「うん。宜しく」
中々呼ばれない名称で、なんだか気恥ずかしかった。
「じゃあ、僕は君のことをどう呼べばいいかな?」
「私はクエリィです」
「クエリィ……か。よろしくね」
「はい……それにしても、よくこんな場所まで来ましたね」
「あぁ……三浦先生が教えてくれてさ」
「三浦先生?」
僕はポケットに入れていたスマートフォンを取り出し、三浦先生の写真をクエリィに見せる。
「結構、というよりかなり変わってる先生でさ。都市伝説の噂とかオカルトに心酔してるんだよ」
「……」
「……クエリィ?」
じーっと、クエリィは写真に映った彼を見つめる。
確かに妙にイケメンで高身長だから、目の保養にはなるけども。
そこまで黙りこくっていると、気まずい。
しかし沈黙は、ありがたいことにすぐに破られた。
「……すみません。どこかで会った気がして」
「え? この人に?」
まさか面識があるとは思わなかった。
……あの先生、都市伝説の化け物とかと遭遇したことないって言ってなかったかな。
「はい。ただ、話したことはないです」
「でも会ったことがあると?」
「……えぇ」
不思議な話だ。
クエリィがどこかのタイミングで三浦先生に会っていて、対して三浦先生は彼女に会ったことがない……。
明らかな矛盾だが、三浦先生は嘘をついていたのだろうか。
都市伝説に遭遇したことがあるなら、むしろ彼なら自慢してきそうなことだが。
何か理由があるのか。
それからも僕らは、しばらく話し合っていた。
僕自身の学校や、三浦先生のことも。
特に彼女にとっては、彼のことが気になっていたようだ。
そしてしばらくして、眠気が僕を襲った。
僕は座りながら、眠りに落ちた。
──夢を見ていた。
黒い人影たちが僕を囲っている。
その人影が僕を見て、口々に好き勝手に喋る。
「空前絶後の新記録! 中学記録更新!」
「これは未来のオリンピアン」
「将来が楽しみだねぇ」
…………。
場面が切り替わって、今度は今の自分が映し出された。
すると人影たちの目が赤く、血のように染まりまた口を開く。
「早熟タイプだったんだよきっと」
「まぁフォームを見ても伸びないかなとは思ってた」
「誰だよ未来のオリンピアンとか言ってたの」
……やめてくれ。
「選手は悪くないよ。指導者が悪いよ」
「桐生選手、裏では遊んでるって噂ほんと?」
「まじかよ。残念だわー」
本当に……。
「中学記録作った癖に伸びねぇのかよ。期待外れ」
「やる気ないんじゃないの?」
「中学記録作るやつが伸びる訳ないでしょw そこで終わったんだよ桐生翔は」
ほっといてくれよ……。
……頼むから。
ふと、窓から光が差し込んでくるのを感じた。
視界に飛び込んできたのはその光と、タンスを調べているナナだった。
僕の視線に、彼女も気づいたらしい。
「起きましたか」
「う、うん。おはよう」
「よく寝れましたね」
「褒め言葉として受け取っとくよ」
「受け取るなら、警戒心をお願いします」
「はは……ねぇクエリィ」
「はい?」
「聞きそびれちゃったんだけど、何で仮面を……?」
「……」
もしかしたら地雷だったかもしれない。
余計なコミュニケーションを取ろうとしてしまった。
「い、言いづらかったら大丈夫。僕も名前を言ってないから」
「醜いから、です」
「え?」
「皆さんにとって、私の顔は醜いからです」
淡々と、僕の疑問に答えてくれた。
三浦先生が見せてくれた写真の通りであれば、むしろ顔は整っていてそんなことは気にしなくてもよい気がするが……そういう問題でもないのだろうか。
醜形恐怖症、というやつか。
「……そ、そっか」
どちらにせよ、寝起きとはいえもう少し気を遣うべきだった。
「ありがとう。教えてくれて」
「いえ……お礼を言われるようなことは──」
ドン!!
突然、扉を乱暴に叩く音が聞こえた。
この音を出すのは奴以外考えられない。
どうやらバレてしまったらしい。
僕が心臓の音をバクバクと鳴らしてる中、クエリィは冷静だった。
彼女は静かに僕を見つめ、呼びかけた。
「……お兄さん」
「ど、どうした?」
「脱いで下さい」
「……はい?」
「服を、脱いで下さい」
「この状況で!?」
「さぁ早く」
「え、えぇっ」
訳が分からないまま、僕は小さな彼女に服を脱がされることになった。
それから服をそこらに投げ捨て、僕らはタンスの中に隠れることになった。