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クリスマスの街は、どこを見てもキラキラしたイルミネーションで溢れていた。
私、キララは、駅前の巨大なツリーの下で、彼氏のユウキくんを待っていた。
ユウキ:「キララ! 寒い中、待たせてごめんね。これ、プレゼント。君に似合うと思って選んだんだ」
ユウキくんは優しく笑って、私の首に真っ白でふわふわのマフラーを巻いてくれた。
キララ:「(満面の笑みで)わぁ、ありがとう、ユウキくん! 私、今が人生で一番幸せかもしれない!」
この時までは、本気でそう思っていた。
ユウキ:「あ、ごめん。ちょっとお手洗いに行ってくるから、ここで待っててくれる? すぐ戻るから」
キララ:「うん、わかった。ゆっくりで大丈夫だよ、ここで待ってるね」
ユウキくんが離れて一人になった時、私はツリーの光をぼんやり眺めていた。その時、駅の改札から大きなスポーツバッグを担いだ集団が出てくるのが見えた。
キララ:「(息が止まる)……え……?」
その集団の中に、ずっと頭から消し去っていたはずの、ミナトがいた。
泥だらけのジャージ、少し疲れたような、でもやり遂げたような顔。ミナトは仲間と笑いながら歩いていたけれど、ふとした瞬間にこちらを向き、私と目が合った。
ミナト:「(足を止めて、驚いたように)……キララ?」
たった一言。名前を呼ばれただけ。なのに、私の心の中にあった記憶が、一気に溢れ出してきた。あの日、図書室で一緒に過ごした時間、ぶっきらぼうな優しさ、全部……。
「キララ、お待たせ!」
そこへ、ユウキくんが戻ってきた。
ユウキ:「(私の肩を抱き寄せながら)誰かいたの? ぼーっとして。顔色悪いよ、寒い?」
キララ:「(ハッとして)あ、ううん! なんでもない。ちょっと考え事してただけ」
ユウキ:「(心配そうに私の頬に手を添えて)そう? ならいいんだけど。……ねえ、これからは僕がずっと君の隣にいるからね。寂しい思いなんて、絶対にさせないから」
ユウキくんの言葉は、完璧だった。ミナトが一度も言ってくれなかった、私がずっと欲しかった言葉。私は自分に言い聞かせるように、ユウキくんの胸に顔を埋めた。
キララ:「(震える声を隠して)うん……。ありがとう、ユウキくん」
ミナトは遠くで、一瞬だけ寂しそうな顔をしてから、仲間の方へと背を向けた。私はその背中から目を逸らし、ユウキくんの手を強く握った。
ユウキ:「(優しく微笑んで)さあ、予約したレストランに行こう。今日は最高にロマンチックな夜にするからね」
キララ:「(無理に明るい声を作って)うん! 楽しみ!」
レストランに向かう道中、ユウキくんは私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれた。ミナトみたいに前をズカズカ歩いて「おせーよ」なんて言わない。階段では手を引いてくれるし、寒くないか何度も聞いてくれる。
でも、ユウキくんが話してくれる「二人の未来」の話を聞きながら、私の心の中には、さっき見たミナトの泥だらけのジャージ姿が焼き付いて離れなかった。
キララ:「(心の声)……ダメ、忘れなきゃ。私の隣にいるのはユウキくんなんだから。私は今、最高に幸せなんだから」
私はミナトの方を一度も振り返らず、ユウキくんと手を繋いで、そのまま光り輝く街へと歩き出した。ミナトのことなんて、またすぐに忘れられる。
家に着くまでの間、私はユウキくんの腕に必死にしがみついていた。そうしていないと、自分の心がどこかへ飛んでいってしまいそうだったから。
つづく