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クリスマスの夜に一瞬だけ見かけたあの影は、雪が溶けるみたいに私の心から消えていった。
年が明け、受験シーズンが本格的になっても、私の隣にはいつもユウキくんがいてくれた。
キララ:「(参考書を閉じながら)ふぅ……。ユウキくん、この数学の問題、どうしても解けないんだけど」
ユウキ:「(隣で自分の勉強をしながら、優しく覗き込んで)どれ? ああ、これは公式をこう使うんだよ。……ほら、こうすれば簡単でしょ?」
キララ:「(笑顔で)わぁ、本当だ! ユウキくんって教えるのもうまいね。助かっちゃった」
放課後の図書室。かつてはここでミナトが騒いで先生に怒られていたけれど、今は驚くほど静かで、ペンを走らせる音とユウキくんの穏やかな呼吸だけが聞こえる。
ユウキ:「(私の手の上に、そっと自分の手を重ねて)キララ。勉強頑張るのもいいけど、あんまり根を詰めすぎないでね。君が疲れた顔をしてると、僕も辛いから」
キララ:「(頬を赤くして)……うん、ありがとう。ユウキくんがいてくれるから、私、頑張れるよ」
図書室を出て、私たちは夕暮れの渡り廊下を歩いていた。ふと、掲示板に貼られた「サッカー部・県大会ベスト4」の新聞記事が目に入ったけれど、私は足を止めることさえしなかった。
ユウキ:「……キララ、どうかした?」
キララ:「(明るく笑って)ううん、なんでもないよ! それより、ユウキくん。今日の塾の帰り、コンビニで温かい肉まん食べない? 私、なんだか今日はお腹空いちゃって」
ユウキ:「(ふふっと笑って)いいね。半分こしよっか。……キララがそうやって笑ってると、僕まで元気が出るよ」
少し前までなら、サッカー部の記事を見れば、その中に映るミナトの姿を必死に探して、切り抜いて宝物にしていたはずだ。でも、今の私の目には、隣を歩くユウキくんの優しい眼差ししか映っていない。ミナトとの十年間の思い出は、もう「あったかもしれない別の人生」の話。
帰り道、私たちは街灯の下で足を止めた。ユウキくんが私のマフラーを直してくれる仕草が、あまりにも自然で、心地よくて。
ユウキ:「ねえ、キララ。もし僕たちが違う道を選んでたとしても、僕は君を見つけ出したと思う。……それくらい、君が必要なんだ」
キララ:「(胸がいっぱいになって)……ユウキくん。私もだよ。ユウキくんに出会えたから、私、自分を好きになれた気がする」
ミナトのぶっきらぼうな「好き」を待っていた自分。そんなのもう、どこにもいない。
私はもう、グラウンドから聞こえてくるサッカー部の掛け声に耳を傾けることも、窓の外を気にする必要もなかった。私の世界は、この穏やかな空気と、目の前にいるユウキくんだけで完璧に満たされていた。
キララ:「(心の声)……あの日、駅で一瞬だけ動揺しちゃったけど、やっぱり私にはユウキくんしかいない。ミナトのこと、もう完全に、綺麗に、過去のことになったんだな」
私は、ユウキくんの手をぎゅっと握り返した。この温かさがあれば、どんなに寒い冬だって平気だと思えた。
つづく