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「……ライブ配信?嫌だ、奈緒、それだけはやめてくれ……!」
健一はリビングの床に座り込み、必死に首を振った。
私の手には、ナオミのアカウントがログインされたスマホと、配信用のライトがセットされている。
「あら、嫌だなんて言える立場かしら。パトロンがいなくなった今、あなたがこの家で生きていくための『食費』は、自分で稼いでもらわないと」
私は冷淡に言い放ち、彼に「犬の耳」のついたカチューシャと、目元を隠すベネチアンマスクを放り投げた。
「顔は隠してあげるわ。でも、身体は晒してもらうわよ。ナオミのフォロワーたちは、高慢だった男が堕ちていく姿を、もっと近くで見たいって切望しているの」
健一は屈辱に震えながらも、警察と里奈の影に怯え、言われるがままにマスクを装着した。
「……準備はいい? 配信、始めるわよ」
画面に『ナオミの飼い犬・再教育生配信』というタイトルが躍る。
接続者数は一瞬で数千人を突破した。
『わあ、本当に始めた!』
『これが例の不倫課長?』
『マスクしてても情けなさが伝わってくるw』
コメント欄が猛烈な勢いで流れていく。
健一はその文字を見るたびに、肩を小さく震わせた。
「さあ、皆さん。今日のメニューは『完璧な床磨き』と『靴舐め謝罪』です。スパチャをくれた方のリクエストには、彼ができる限り応えますよ」
私がそう告げると、画面には高額なギフトが次々と飛び交った。
『もっと這いつくばらせて!』
『エプロン姿でダンスさせて』
健一は、私・ナオミの命令に従い、カメラの前で四つん這いになり、床を必死に磨き始めた。
その時、コメント欄にある「特定の名前」が現れた。
『アカウント名:元・サレ妻の味方』
『コメント:あら、ずいぶん可愛いワンちゃんね。健一、そのお尻の振り方、里奈に見せてた時より上手じゃない?』
健一の動きがピタリと止まった。
里奈だ
彼女はこの配信を特定し、リアルタイムで彼を嘲笑いに来たのだ。
さらに、もう一人の「客」が現れる。
『アカウント名:部長H』
『コメント:おいおい、わが社の元エースがこんなところで芸を見せているとはな。明日の朝、この動画を全社員のグループチャットに流しておいてやるよ』
「……っ、ああ……あああ……!」
健一はマスクの下で声を殺して泣き出した。
画面越しに、かつて自分を称賛し、あるいは憎んだ人々が、今の自分を「消費」している。
彼はもう、一人の人間ではなく、ネットの海に放り出された「見世物」に過ぎなかった。
「ほら、健一さん。手が止まっているわよ。フォロワーの皆さんに、もっと『誠意』を見せなきゃ」
私は彼の背中にヒールを乗せ、軽く体重をかけた。
カメラに向かって、私は最高に美しい「ナオミ」の笑声を響かせる。
「……ねえ、皆さん。この男、次はどんな風に壊してほしい?」
健一の精神が、薄氷のようにパキパキと音を立てて割れていくのが分かった。
彼はもはや、自分が何のために生きているのかさえ、分からなくなっていた。
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#大人ロマンス
#サレ妻