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第8話「記録されない作戦」
深夜。
兵舎の廊下を抜け、資料保管室の鍵を開けたのはショッピだった。
彼は誰にも気づかれぬよう、薄暗い部屋でひとつのファイルを探していた。
「……やっぱり、ここにあるはずはないか」
検索記録にも残らない“未登録”の作戦。
軍の正式文書からも消され、存在自体がなかったことにされている作戦。
『記録されない作戦——ラグナ・プロトコル:深層』
⸻
一方、セツナはグルッペンから手渡されたファイルを読み進めていた。
そこにはこう書かれていた。
【対象者:黒瀬セツナ(推定年齢:10)
分類:実験個体“R-Z7”
内容:感情抑制投薬実験、戦闘耐性評価、記憶消去後の再配属テスト】
呼吸が止まった。
過去の自分が、“名前”ではなく“番号”で扱われていたという事実。
⸻
翌朝。
セツナは、鬱先生の部屋の前に立っていた。
「……開けてくれませんか。今度こそ、全部聞かせてください」
扉の向こうで気配が動いた。
数秒の静寂のあと、ゆっくりと鍵が外された。
⸻
鬱先生の部屋は、薄暗く、整頓されすぎていた。
まるで“誰かがいつでも来ることを恐れていた”かのように。
「……“番号”で呼ばれていた記録、見たんです」
鬱先生は黙っていた。
「僕を、“名前ある人間”として通してくれたのは、あなたなんですよね」
ようやく鬱が口を開いた。
「記録に残らない兵士は、死ぬこともできない。
だから、俺は“名前”を与えた。
記録には反する。でも、それが俺の罪だった」
⸻
セツナは目をそらさずに言った。
「じゃあ、僕は——その罪の証明として、生き続けていいんですね」
鬱先生の目が揺れた。
しばらくの沈黙のあと、小さく笑った。
「……お前がそれで前に進めるなら、勝手にしろ。
ただし、もう戻れねえぞ」
⸻
そのとき、ショッピから連絡が入った。
ディスプレイに浮かぶ、ただ一文のメッセージ。
「第零区域。準備は整った。行けるか?」
鬱が短く言う。
「始まるぞ、黒瀬セツナ。“記録されない真実”が」
「真実」