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第9話「第零区域」
軍本部から南東に離れた場所。
地図にも記録されないその施設は、「第零区域」と呼ばれていた。
正式には**“旧研究廃棄区画”**。
今は無人とされている。だが、ショッピの解析では、定期的に情報の送信ログが残っていた。
⸻
セツナは、鬱先生・ショッピとともに、その区画へ向かう。
トントンからは「もし戻らなければ、それも選択だ」とだけ告げられた。
夜。
霧に包まれた森を抜けて、無言で歩く3人。
セツナは、拳を握りながら問う。
「そこに……僕の“過去”があるんですか」
鬱先生は前を見たまま答える。
「お前の“名前がなかった時代”が、そこに眠ってる」
⸻
入口は古びた格納庫の扉。
ショッピが回線をハッキングすると、重い音を立てて開いた。
その中には——
人の形をした無数の“棺”のようなカプセルが並んでいた。
⸻
セツナは、見た瞬間に思い出した。
冷たい水。
白い天井。
光に焼かれるような目。
呼吸ができないまま、数字で呼ばれた日々。
「ここだ……俺、ここにいた」
足元が崩れそうになったが、鬱先生の手が肩を支えていた。
「思い出さなくていい。けど、向き合え」
⸻
ショッピが最奥の端末にアクセスすると、1件の記録映像が再生された。
【R-Z7(黒瀬セツナ)・観察記録:最終報告】
被験者の精神回復反応は通常個体より著しく高く、記憶再構築能力に異常な回復傾向あり。
このままでは“洗脳保持”が不可能と判断。廃棄予定。
「廃棄予定……だったのか、俺……」
セツナの唇が震えた。
⸻
「その“予定”を止めたのが、鬱先生だ」
ショッピがぽつりと言った。
「……違う」
鬱先生がかぶせるように言った。
「止めたんじゃない。お前が“生きようとした”から、生き残った。
俺は、それに名前をくれてやっただけだ」
⸻
そのとき、警報が鳴った。
照明が赤く染まり、周囲に響く機械音。
【侵入者アリ——研究記録抹消プロトコル起動】
「……やべ、こっちの動き、読まれてた!」
⸻
鬱が銃を引き抜き、セツナをかばうように立つ。
「セツナ、走れ!!」
「でも……!!」
「全部知ったなら、生きて証明しろ!!」