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――氷は受け流し、紅は燻る――柱屋敷。
昼下がり。
新人隊士の紹介が行われていた。
隊士たちの列の中、ひときわ目立つ少女が一人いる。
年は若く、動くたびに鈴のような声を立てる。
新人隊士:
「はじめましてぇ〜♡
今日から鬼殺隊に入隊しました、◯◯と申しますぅ」
視線が、ちらり。
――童磨に向いた。
雪紅:
「…………」
胸の奥が、嫌な音を立てた。
しのぶ:
「では、それぞれ配置に——」
新人隊士:
「あっ、その前に……」
一歩、前に出る。
新人隊士:
「氷の柱様って……どの方ですかぁ?」
童磨:
「ん?」
童磨は首を傾げ、軽く手を挙げた。
童磨:
「俺だよぉ」
新人隊士:
「えっ……」
ぱぁっと顔が明るくなる。
新人隊士:
「わぁ……噂以上に、綺麗な方……♡」
童磨:
「そう?」
新人隊士:
「はいぃ♡
あの……任務とか、ご一緒できたら嬉しいなぁって……」
雪紅:
「…………」
無意識に、腕を組む。
童磨:
「それは隊の判断次第だねぇ」
新人隊士:
「えぇ〜……」
肩をすくめ、上目遣い。
新人隊士:
「私、足手まといにならないように頑張りますからぁ……
守ってくれますよね? 氷柱様ぁ」
周囲が、ざわりとする。
雪紅:
「……」
童磨:
「うーん」
少し考える仕草。
雪紅:
(……やめろ)
童磨:
「自分の身は、自分で守るものだよ」
新人隊士:
「……え?」
童磨:
「鬼は待ってくれないしさぁ」
新人隊士:
「そ、そうですよねぇ……」
明らかに期待を外された声。
雪紅:
(……それでいい)
なのに。
胸の奥の、もやもやは消えない。
任務前の準備場。
新人隊士は、わざわざ童磨の近くに立つ。
新人隊士:
「氷柱様ぁ、この剣の持ち方、合ってますかぁ?」
童磨:
「普通だねぇ」
新人隊士:
「えぇ〜、もっとちゃんと見てほしいなぁ……」
童磨:
「ちゃんと見てるよ」
新人隊士:
「え、どこですかぁ?」
童磨:
「全体」
雪紅:
「…………」
ぎり、と歯を噛む。
新人隊士:
「紅柱様は、どう思いますかぁ?」
雪紅:
「……何が」
新人隊士:
「私、ちゃんとできてますよねぇ?」
雪紅:
「……」
雪紅:
「任務中に媚びる余裕があるなら、鍛錬しろ」
新人隊士:
「……っ」
空気が、凍る。
童磨:
「雪紅、言い方」
雪紅:
「……事実だ」
新人隊士:
「ご、ごめんなさぁい……」
潤んだ目で、童磨を見る。
新人隊士:
「氷柱様……」
童磨:
「……」
一瞬、沈黙。
雪紅:
(……何か言ったら)
童磨:
「しのぶに聞いて」
即答。
新人隊士:
「え……」
童磨:
「剣のことなら、彼女の方が詳しいよ」
しのぶ:
「……はい?」
突然振られた。
しのぶ:
「え、私?」
童磨:
「お願い」
新人隊士:
「……」
渋々、しのぶの方へ行く新人隊士。
雪紅:
「…………」
胸が、ちくりと痛む。
――違う。
助かったはずだ。
なのに。
夕方。
雪紅は一人、廊下を歩いていた。
雪紅:
(……何なんだ、今日)
苛立つ理由が、分からない。
そこへ。
童磨:
「ねぇ、雪紅」
雪紅:
「……何」
童磨:
「機嫌悪い?」
雪紅:
「悪くない」
童磨:
「嘘だねぇ」
雪紅:
「……関係ない」
童磨:
「新人の子?」
雪紅:
「……」
沈黙。
童磨:
「別に気にしてないよ、俺」
雪紅:
「……そう」
童磨:
「雪紅以外は」
――一拍。
雪紅:
「……は?」
童磨:
「君が不機嫌なの、珍しいなぁって」
雪紅:
「……勘違いだ」
童磨:
「ふぅん」
一歩、距離を詰める。
雪紅:
「……近い」
童磨:
「新人、可愛かった?」
雪紅:
「……は?」
童磨:
「俺に色目使ってたでしょ」
雪紅:
「……知らない」
童磨:
「へぇ」
雪紅:
「……どうでもいい」
童磨:
「それ、本音?」
雪紅:
「……」
言葉が、詰まる。
童磨:
「ねぇ」
雪紅:
「……何」
童磨:
「君が嫌なら、俺、全部断るよ」
雪紅:
「……必要ない」
童磨:
「でも」
雪紅:
「……!」
顔が、熱くなる。
雪紅:
「私は……
あんたが、誰にどう思われようと……」
声が、低くなる。
雪紅:
「……関係ない」
童磨:
「……そっか」
少しだけ、寂しそうに笑う。
童磨:
「でもさ」
雪紅:
「……何」
童磨:
「君が気にしてるのは、分かった」
雪紅:
「……っ」
童磨:
「可愛いねぇ」
――ゴン!!
紅い鞘が、容赦なく当たる。
童磨:
「痛っ」
雪紅:
「……調子に乗るな」
童磨:
「はいはい」
でも、笑顔は消えなかった。
その夜。
雪紅は、眠れなかった。
胸の奥に残る、
どうしようもない“もやもや”の正体に、
まだ名前をつけられずにいた。