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――近づく距離、縮まらない想い――数日後。
柱屋敷・合同鍛錬場。
雪紅は黙々と素振りを続けていた。
呼吸を整え、雑念を断つ――はずなのに。
視界の端が、やけにうるさい。
新人隊士:
「氷柱様ぁ〜♡」
……来た。
童磨:
「ん?」
新人隊士は、あからさまに距離を詰める。
わざと転びそうな仕草。
新人隊士:
「きゃっ……!」
童磨:
「大丈夫?」
手を差し出す。
雪紅:
(……)
新人隊士:
「ありがとうございますぅ♡
やっぱり、優しいんですねぇ」
童磨:
「そう?」
新人隊士:
「はいぃ。
あの……このあと、お時間とか……」
童磨:
「鍛錬があるからねぇ」
新人隊士:
「え〜……少しだけでも……」
雪紅:
「…………」
握っていた柄が、きし、と鳴る。
新人隊士:
「紅柱様って、厳しいですよねぇ」
雪紅:
「……何」
新人隊士:
「いえぇ?
いつも怖い顔してるなぁって」
童磨:
「それ、失礼じゃない?」
新人隊士:
「えっ、そうですかぁ?」
きょとん、と首を傾げる。
新人隊士:
「でもぉ、氷柱様はいつも笑ってて……
一緒にいると、楽しいですよねぇ?」
雪紅:
「……」
童磨:
「楽しい、かなぁ」
新人隊士:
「はいっ♡
だから、私……」
一歩、さらに近づく。
新人隊士:
「氷柱様の任務、
私が補佐としてついていけたらいいなぁって……」
周囲が、ざわついた。
雪紅:
「……それは」
童磨:
「隊の判断だねぇ」
新人隊士:
「でも、柱様の推薦があれば……♡」
その瞬間。
――雪紅の足が、止まった。
雪紅:
「……やめろ」
新人隊士:
「え……?」
雪紅は振り返り、まっすぐに見据える。
雪紅:
「柱を、私情で使うな」
新人隊士:
「そ、そんなつもりじゃ……」
雪紅:
「任務は遊びじゃない」
新人隊士:
「……っ」
目に、涙が浮かぶ。
新人隊士:
「……氷柱様……」
童磨:
「……」
一瞬、間。
雪紅:
(……言え)
童磨:
「雪紅の言う通りだよ」
新人隊士:
「……!」
童磨:
「君が死なないためにもねぇ」
新人隊士:
「で、でも……」
童磨:
「俺のそばにいれば安全、なんて思わない方がいい」
笑顔は、変わらない。
けれど――距離は、はっきり引かれていた。
新人隊士:
「……分かりましたぁ……」
俯いて、去っていく。
静寂。
雪紅:
「……」
童磨:
「怒ってる?」
雪紅:
「……別に」
童磨:
「でもさ」
雪紅:
「何」
童磨:
「君、さっき俺のこと睨んでたよね」
雪紅:
「……任務中だ」
童磨:
「それだけ?」
雪紅:
「それだけ」
童磨:
「ふぅん」
少しだけ、楽しそうに目を細める。
童磨:
「じゃあ聞くけど」
雪紅:
「……何」
童磨:
「俺があの子と組んだら、嫌?」
雪紅:
「……」
答えが、出ない。
童磨:
「沈黙は肯定だよぉ」
雪紅:
「……違う」
童磨:
「へぇ」
雪紅:
「……私は」
言いかけて、止まる。
童磨:
「?」
雪紅:
「……柱だ。
任務に支障が出ることが、嫌なだけだ」
童磨:
「そっか」
一歩、近づく。
雪紅:
「……近い」
童磨:
「安心して」
雪紅:
「何が」
童磨:
「俺、君以外と組む気ないから」
雪紅:
「……っ」
童磨:
「最初から」
雪紅:
「……」
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
雪紅:
「……勝手に決めるな」
童磨:
「でも、嬉しそう」
雪紅:
「……違う」
童磨:
「じゃあ、続きはまた今度だねぇ」
背を向けて歩き出す童磨。
雪紅:
「……」
その背中を見つめながら、
雪紅は初めて思った。
――この“もやもや”は、
無視できるほど、小さくない。