テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#狂愛
柏木さくら
829
西原衣都
866
#ロマンスファンタジー
Jasmine
724
瑠璃マリコ
10,376
急にばつの悪さを感じた私は肩をすぼめ、慌てて言葉を取り繕う。
「あっ……いえ、突然変な質問をしてすみません。一般論の話です。ほら、結婚したら女として見られなくなるとか聞くじゃないですか。子どもを産んだら、女ではなく母親になる……とか」
「なるほど。一般論ね」
今泉さんはゆっくりとうなずきながら、目尻に皺を寄せた。
「はい。あくまでも一般論です……」
「つまり、『釣った魚には餌をやらない説』……かな?」
「はい、それですっ。釣った妻には愛をやらない説です」
「釣った妻には愛をやらない説!? 亜紀さん、上手いこと言うなぁ。面白いと同時に、男の俺には耳が痛い厳しさだ」
今泉さんは目を細め、声を上げて笑った。
「では、俺なりの一般論でお答えいたしましょう」
今泉さんは冗談っぽく「ゴホン」と咳払いをした。
「はい、お願いいたします!」
今泉さんを見つめ、私も大袈裟に姿勢を正して小さく笑う。
「そうだな……。まず初めに、恋愛におけるイニシアチブについて話そうか。イニシアチブ……つまり主導権は、男と女、どちらにあると思う?」
今泉さんは私を見つめ返し、意味ありげな笑みを浮かべた。
「恋愛における主導権……ですか?」
初っぱなからの思いがけない問いに首を傾げる。
「そう、主導権。男が女を振り回すのか、女が男を振り回すのか……直感でいいよ。どっちだと思う?」
「えっと、男性だと思います!」
自分の中にある『振り回す』という固定観念だろうか、答えはすぐに口から飛び出した。
「なるほど。大抵の女性はそう答えるね。それは、女性の性質として振り回されたい願望があるから。
『振り向いてほしい』『私だけを見てほしい』――そんな欲求から、女性は必死にアクションを起こす。そのアクションの過程を”振り回されている”と、そう感じるんじゃないかな」
「そうなのかな……」
今泉さんの言葉を頭の中で反芻しながら、ぽつりと声を漏らす。
彼は私の反応を見てふっと笑みを浮かべた後、再び言葉を続けた。
「アクションと言っても、それは自覚している積極的な行動だけじゃない。仕草、話し方、化粧、ファッション……それら女性のアクションによって、男は女性を『手に入れたい』という欲望が生まれる。つまり、そこで男は本能に従い、狩りに出掛けるわけだ」
「狩り……? 女性を捕まえるための?」
上機嫌で持論を語る彼を見つめ、つられてくすっと笑った。
「そう、男は生まれながらにして狩人。男の狩り意欲を奮い立たせるのは女性。男の狩り意欲を失わせるのも女性。女性が何もアクションを起こさなければ、男は動かない。つまり、イニシアチブは男が握っているようで――実は?」
「……女性にある。ですか?」
「ピンポーン。亜紀ちゃん、大正解っ」
今泉さんは立てた人差し指を大きく振り下ろし、得意気に笑った。
「狩り意欲って言っても……付き合って、結婚したらどうなるんですか? 捕らえられた女性は、その後どうすればいいんですか?」
彼の次の言葉を待ちきれず、思わず身を乗り出した。
「そう、そこが一番の難問。完全に自分のものになった女性に対して、男は新しい試みをするだろうか?」
「新しい試み……」
「残念ながら、この答えは『NO』。これは、亜紀さんが最初に質問した『結婚したら妻は女じゃなくなるの?』に繋がるね。
男は捕まえた獲物に新しい刺激は求めない。……でも、手に入れた女性のアクションによって、“違う刺激”は与えられることがある。男に“手放したくない”と思わせる刺激だ。まあ、これも俺の中にある一般論……持論だけどね」
今泉さんは小さく息をつくと、取り皿に乗った豆腐を口へ運んだ。
「今泉さん、手に入れた女性による……その違う刺激って何ですか?」
私はごくりと息をのみ、すがるような思いで再び問いを投げかけた。
「違う刺激は……その前に、亜紀さんは結婚してから女を捨ててない?」
「はっ?」
これまた予想外の切り返しに、目を皿のようにして彼を見る。
「ごめんごめん。違う刺激の話は応用編だから。その前に、男として大切な話をしておきたいと思って」
今泉さんは頬張った豆腐を酒で流し込み、拍子抜けした私の顔を見て笑った。
「はぁ……。えっと、女を捨てるって……どういう状況ですか?」
私は再び瞬きを繰り返し、首を傾げる。
「例えば、ご主人の前で平気で着替えたり、風呂上がりやベッドでの行為の後に裸のままうろついたり……体型を気にしなくなったり、お洒落や化粧をしなくなったり」
「裸でうろついたりはしませんけど……着替えはするかな。化粧やお洒落は……確かに結婚前より気にしなくなってるかもしれない。でも、それって結婚したらそんなものじゃないんですか?」
「結婚したらみんなそんなもの。母親になったらみんなそんなもの。忙しくて、いちいち身なりなんて気にしていられない!――って、よく聞く台詞だよね」
「息抜きする生活の場所なんだから、恋人同士の時みたいにはいきません。だからって、決して女を捨ててるつもりはないです」
酔いに任せ、私はきっぱりと言い放った。
コメント
1件
柏木さくらさん、第34話読みました〜!🌸 今泉さんとの会話、めちゃくちゃ深くて考えさせられる回だった…!「釣った妻には愛をやらない説」ってワードセンス、思わず笑っちゃったけどめっちゃ刺さる😭💦 恋愛の主導権は実は女にあるって持論も、亜紀さんが「女を捨ててるつもりはない」って言い返すシーンも、キャラの心情がリアルでぐっときた…!次が気になりすぎる〜!!✨