テラーノベル
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「……えっ」
昼下がり。
陽太が学校へ行き、直樹が会社にいる静かなリビングで、私はPC画面を二度見した。
先日納品したバナー制作のクライアントから
継続案件の打診と、さらに単価アップの提示が届いていたのだ。
画面に表示された報酬予定額は、5万円。
直樹から渡される一ヶ月の生活費を、一気に超えた。
「できる……。私、ひとりでやっていける……!」
震える手でマウスを握りしめる。
直樹に「寄生虫」と呼ばれ続け、枯れ果てていた自信の泉に、瑞々しい水が溢れ出すような感覚。
私はすぐに、昨日作った「抹殺計画用」の新しい銀行口座を確認した。
ネット銀行なら、通帳を物理的に隠す必要もない。
スマホひとつで管理できる私の『牙城』だ。
ところが、そのとき
カチャリ、と玄関の鍵が開く音がした。
(嘘……。まだ15時よ!?)
心臓が口から飛び出しそうになる。
慌ててPCのブラウザを閉じ、電源を落とす。
バッグに押し込む時間は───ない!
私は反射的にPCの上に読みかけの料理雑誌を被せ、立ち上がった。
「……あれ、直樹?どうしたの、こんな時間に」
リビングに入ってきた直樹は、ネクタイを緩め、どす黒い表情をしていた。
「……クソが。接待の約束が急にキャンセルになったんだよ」
直樹は苛立ちをぶつけるようにカバンをソファに放り投げた。
そして、私の不自然な立ち位置に目を留める。
「……何隠してるんだ?」
「えっ? 何も……」
「どけよ」
直樹の大きな手が、私の肩を乱暴に突き飛ばした。
テーブルの上の料理雑誌が払いのけられ、閉じたばかりで熱を帯びたノートPCが露わになる。
「……これ、なんだ?」
「…古い、PCよ。家計簿をデジタルにしようと思って……」
直樹は疑い深い目で私を睨みつけ、PCを手に取った。
「お前みたいな機械音痴が? ……ふん、どうせゴミサイトでも見てるんだろ。電気代の無駄だって言ったよな?」
直樹がPCを開こうとした、そのとき
彼のスマホが激しく鳴った。
不倫相手・莉奈からの着信専用音だ。
直樹の表情が一瞬で「男」の顔に変わる。
「……チッ。分かったよ、今から行く」
彼はPCをテーブルに放り出し、嵐のように去っていった。
画面が割れなかったことに、私は心底安堵した。
「……はぁ…はぁ……っ」
膝の震えが止まらない。
床にへたり込み、私はPCを抱きしめた。
バレる。このままじゃ、いつかバレる。
奴は私の変化を敏感に察知し、徹底的に潰しに来るだろう。
私は震える指で、スマホの「カウントダウン」アプリを開いた。
「もっと、スピードを上げなきゃ」
直樹が莉奈と温泉旅行に行くと言っていた連休まで、あとわずか。
そこで奴が使う「経費」のすべてを、逃さず記録する。
そして、その裏で私は、陽太を連れて逃げるための「物理的な準備」も進めることを決意した。
(直樹、あなたは知らない。私が今、いくら稼いでいるのか。そして、私がどれだけあなたを憎んでいるのか)
私は再びPCを立ち上げ、チャットツールを開いた。
クライアントへの返信は、一言。
『承知いたしました。本日中に、追加の5件分も納品いたします』
筆致は、これまでになく力強いものだった。
【残り96日】