テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「いらっしゃ~い。お待ちしてましたー」
ギター担当のシュウが声を上げ、こちらへ手をこまねいた。
「待ってました、お疲れさまです」
ドラムのヒロが、にっこりと笑顔を作る。
「さっきは、どうもでした」
ベースのジンが持っていたグラスを軽く掲げ、愛想を振りまくように片目を閉じて見せる。
3人のバンドメンバーの他には、マネージャーやスタッフなどの関係者数人が集まっていて、堀りごたつ式の長卓が埋まっていた。
「ここ、どうぞ?」
と、促されて、「ありがとうございます」と、空いているシュウの隣の席へ座った。
腰を下ろしてみて、改めて並ぶ顔を見渡すも、そこにはヴォーカルの彼の顔は見当たらなかった。
「ヴォーカルのカイさんは、来られていないんですか?」
シュウに何気なく問いかけると、
「ああ、あいつはこういう大勢の集まりとかは、嫌いなんで」
そう素っ気ない答えが返った。
「全然、出ないんですか?」
「ああ。仕事絡みで参加しないとマズい時ぐらいしか、カイは出ない」
「そうなんですか……」
(飲み会の場にもあんまり顔を出さないなんて、よっぽど人付き合いがイヤだったりするのかな…)
そうぼんやりと思いつつ、つがれたビールを一口飲んで、渇いた喉を潤した。
……お酒が進んで、メンバーらともだいぶ打ち解けてきて、
「だけど、ヴォーカルのカイさんて、なんだかみなさんとちょっとタイプが違いますよね…?」
ずっと気にかかっていたことを、隣にいるシュウに酔った勢いで振ってみた。
「タイプが違うって? もしかしてあいつのことが、気になる感じなんですか?」
シュウに興味しんしんといった風で、つぶさに顔を覗き込まれる。
「……気になるっていうか、」
思いつくままを言ってはみたけれど、いざそう聞き返されるとなんだか気まずいような感じもして、残っていたグラスのビールをゴクリと流し込むと、
「……いえなんだか変わった人にも思えるから、興味がわくような……そんな感じですかね」
あまり上手くは言い表せないことを、口先でボソボソと喋った。
「ああー確かに、変わり者ですよね、あいつは」
シュウの返事に、横にいたジンが頷く。
「変わってますよね、ホントに。食事とかも、あいつは全然付き合ったりもしないし。僕なんて、カイの連絡先だけ知らないくらいだから」
「俺も、」「プライベートじゃ、誰も知らないんじゃないか?」
ジンに続いて、シュウとヒロがそう口にする。
メンバーでも、連絡先も知らないんだ……と、漠然と思う。
番組で歌っていた、見る人を魅了するような彼のあだっぽい眼差しが思い浮かぶと、興味は少なくともあるのに、彼のことだけはいつまでたってもちっとも見えてはこないことが、ただ歯がゆくも感じられた──。