コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
鬼堂楽園奇譚 第二章「雷花、最初の衝突」
境橋を揺らす殺気の中心で、最初に動いたのは西の鬼——雷花だった。
「一番は私っ!!」
叫ぶと同時に、足裏から稲妻が弾けた。
軽い跳躍——のはずなのに、地面は爆発したように割れ、雷花の身体は弾丸のように前へ飛ぶ。
朗の面が僅かに動く。
速い——ではなく、荒い。
子供が全力で走るような勢いでありながら、その一撃には雷の質量が載る。
「せぇーのっ!!」
黒い棍棒を両手で握りしめ、雷花は真上から叩きつけた。
轟音。歪む空気。
棍棒の軌道は青白い光の帯となり、雷鳴が尾を引いた。
朗は刀を横に振り上げる。
刃と棍棒がぶつかり合った瞬間——
雷花の体から放たれていた雷撃が炸裂。
稲妻が四方八方へ飛び散り、石畳が砂利のように弾け跳んだ。
その爆風に包まれながら、朗だけが微動だにしない。
「こんなもんか?」
低い声。
雷花の表情が驚愕に染まった。
「こんな、もん……!? “雷槌”だよ!?
頑丈な鬼族でものけ反るのに!!」
「……雷槌、か。良い技名だ。
だが俺にとっては——」
刀が震える。
「もっと強くなるための餌だ」
朗の刀が雷を吸い込むように淡く光る。
雷花の瞳が大きく開いた。
「吸ってる……雷の気……!?
血じゃないのに……なんで!?」
「“力の気配”なら何でも喰う。
お前の雷は、生きているようだ」
雷花は悔しそうに歯を噛み、後方に跳んで距離を取る。
着地で地面がさらに砕け、真横へ逃げた瞬間、雷が足跡に残った。
「じゃーあ、もっと食べなよ!!
死なない程度にさぁ!!」
雷花は棍棒を高速で回転させ始める。
稲妻が渦を巻き、彼女の周囲に円形の雷雲が出来た。
髪が逆立ち、稲妻が身体から垂れ流れる。
「あの子……本気に近いわね」
いつも酔ってる酒鬼が少し真剣な表情をする。
「“百雷乱舞”……西領の奥義のひとつだ」
青蘭が呟いた。
雷花は棍棒を突き出し——
空間に稲妻の弾丸を連射するように突撃。
雷撃が無数に朗へ降り注いだ。
一本一本が鬼族を吹き飛ばす威力。
雷花の技の中でも攻勢に特化した、純粋な破壊の雨。
朗はその嵐の中心で——ただ前へ歩く。
皮膚が焦げ、衣が破れ、雷花の雷が肉を貫くたびに、刀が反応する。
赤黒い刃の中心が脈打ち、雷の余韻を飲み続ける。
「いい……もっとだ……!」
朗の歩くたびに地面が沈む。
雷花の攻撃密度を無視するかのような突進。
雷花は顔を青くした。
(……止まってない!?
百雷乱舞、全部当たってるのに……!!)
朗が雷の中から現れた瞬間、雷花は反射で跳び退った。
だが遅い。
「遊びは終わりだ」
朗は瞬時に間合いを詰め、雷花の棍棒に刀を渾身で叩きつけた。
雷花の腕がしびれ、肩まで雷が逆流したような痛みが走る。
「っ……ぐぅうっ!!」
圧力が重い。
刃の軌道は単純だが、力が桁違い。
雷花の膝がわずかに折れる。
「雷花ッ!」
青蘭の鎖が雷花の腰を絡めて後方へ引き寄せた。
その瞬間、朗の刃が雷花の胸の前を横切った。
空気が裂け、雷花は避けきれず頬を切られた。
赤い一筋の血が落ちる。
——そして、その血を刀が吸った。
生々しい音が空気を震わせた。
「……血の味、悪くない」
朗の声には明らかな高揚があった。
鎖を引いた青蘭が前に立つ。
「雷花、無茶です」
雷花は肩で息をしながら言い返す。
「だって……あいつ、ムカつくんだもん……!!
ぜったい、ぶっ飛ばす……!」
「気持ちは分かりますが、あなたの雷はもうかなり吸われています。
いま行っても危険です」
青蘭は鎖を構えたまま、朗へ向けて静かに歩み出る。
朗の面がわずかに傾いた。
「次は、お前か……東領。
重力の鬼だな」
青蘭の目が細くなる。
「そうです。
雷花を傷つけたこと……後悔させます」
朗の刀が脈打つ。
「いいね……重い女は好きだ」
「……黙りなさい」
空気が歪む。
青蘭の周囲に見えない球体の重力場が展開し、空間が重みに悲鳴を上げた。
・つづく