テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
234
#ほのぼの
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「まぁ、そう言わず。姫、飲み物をどうぞ」
涼さんはソファに座っていた私に、冷えた水を差しだし、自分はその足元に跪く。
「……姫って……。いつからホストになったんですか。いや、元からか」
「恵ちゃん専門のね!」
こういう扱いを受けるのに慣れたのか、涼さんはまったく堪えた様子がなく、バッチーンとウインクする。
諦めていると、彼はタオルで私の足を包んでマッサージしてきた。
「沢山遊んで疲れたでしょ。気持ち良くしてあげるからね~」
ラグの上に胡座をかいた涼さんの顔を見ていると、伏せられた睫毛がとても長いのが分かる。
「言い方が誤解を招きます」
「昇天させてあげる」
語尾にハートマークでもついていそうな言い方をされ、私は溜め息をつくと、今日撮った写真をスマホで確認し始めた。
「……いーんですか? 三日月グループの御曹司がパンピーの小娘にこんな事してて。ファンが知ったら卒倒しますし、私も刺されますよ。あいたぁっ!」
言った瞬間、足の側面をグリッと強めに押されて悲鳴を上げる。
「はい、ここ太白(たいはく)~。胃の不調と肝臓に効くよ~」
目を剥いてプルプルと打ち震えていると、彼はニヤリと笑った。
「くだらない事言ってるからだよ」
「でぃっ……、DV……!」
「いやだなぁ、恵ちゃんの体をメンテナンスしてあげてるんじゃない~」
そのあと、彼は程よい力加減で足のマッサージをしてくれるけれど、いつまたグリッとやられるか分からず、私はビクビクして身構える。
「あははっ、イカ耳になった猫みたい。かーわいー」
「ウウ……」
「恵ちゃんの中には、いまだに俺と釣り合わないかもとか、変な引け目があるんだろうけど、もう旅行にも行った仲だし、抱いてるし、家族にも紹介するつもりでいるし、諦めなよ。いつまでもパンピームーブかましてても、あんまり面白くないよ」
「……すみません……」
シュンとして謝ると、彼はマッサージを続けつつ言う。
「ま、気持ちは分かるよ? 普通の生活してて、いきなり飛行機はファーストクラス、ビジネスクラスが当たり前、ホテルはスイートルームは当たり前、ブランド物ゴロゴロ……になって、現実が疑わしくなるのは普通の感覚。それぐらい、恵ちゃんは現実的なんだと思ってる。でもさ、これがもしも宝くじの一等に当たって、口座に何億ものお金が入ったなら、認めざるを得ないじゃん」
「……確かに……」
「きっと恵ちゃんがすんなり受け入れられずにいるのは、自分の努力で得たものじゃないからだよ。現状と宝くじは、確率的に似たようなものだけど、宝くじもある程度の出資をしないと当たりは出ないからね。その分、俺は偶然ダブルデートの相手で出会って、そのまますんなり一目惚れ。普通なら出会って『付き合ってください』ってなるまで、どっちかが努力して、お互いの気持ちが揺れて好き合って……、っていう時間とドラマが発生する。でも俺たちは、数か月は要するそのドラマを、一日で成し遂げてしまった。……恋人が三日月グループの御曹司っていうおまけつきでね」
おまけと言うには大きすぎる。
キラキラアクセサリーがついてくる女児用食玩を買ったら、ハイジュエリーが入っていたようなもんだ。
海老で鯛を釣るじゃなくて、海の神ポセイドンが海底神殿ごと釣れたようなものとも言える。
涼さんみたいな陽キャのポセイドンやだな……。
「やだ~、釣られちゃった~」って言ってそう。
なんか、佳苗成分が強い……。
「突然の事だから慣れない気持ちは分かるけど、あと十年も経てば恵ちゃんはお母さんになってて、俺たちそっくりの可愛い子供相手に、てんやわんやになってると思う。ま、そうなるまでたっぷり悩むのも手だけど。あんまり悩みすぎても、目の前の楽しい事に集中できなくなるよ」
母の顔が思い浮かんだからか、彼女も似たような事を言うだろうな、と感じた。
「……そうですね、ポセイドン」
私はしんみりとなり、思わず考えていた事をポロッと漏らす。
「ん? ポセイドン?」
「いやいやいや、何でもないっす」
「じゃあ、今度、ギリシャでも行く? 地中海クルーズもいいね!」
「どうしてそうなるんですか!」
「クルーズ船の先端で、『タイタニック』ごっこやるんだ……」
「篠宮さんとやっててくださいよ」
「二人とも真顔になるじゃん……。野郎の組み体操じゃん……」
突っ込みを入れると、涼さんはスンッ……と表情を失う。