その日に、モートはミリーにロイヤル・スター・ブレックファーストのアジトまで案内してもらうことにした。不思議な顔で、こっくりと頷いたミリーはモートの手を引いて、一度、路面バスに乗り。イーストタウンの中心部へと向かう。
外は珍しくホワイト・シティ全体をサラサラと日光が照らしていた。オーゼムの家も隣の家も、つららが陽の光に照らされ。ここホワイト・シティは、やはりどんなものよりも美しい銀世界の中の街だと思えた。
しばらくすると、みすぼらしいスラブ街の複雑な道路をバスは通っていた。何回目かのエンストを起こした後に、バスの停留所から狭い林道をミリーを先頭に歩いていった。
「モート……場所は絶対他言しないって、約束してくれるわよね」
「ああ……」
ロイヤル・スター・ブレックファーストのアジトは、イーストタウンの一番端っこにある小さなパン屋だった。店の名は「ロイヤル・スター・ブレックファースト」だった。
入り口のレジのおばさんが、ミリーに連れられたモートを見て、真っ青になり震え上がった。
「モートって、ある意味。わかりやすい人ね」
アジトであるパン屋は二階が広い作りになっていた。ミリーは一つの大部屋のドアを叩いた。中から子供たちの声が複数している。
「ようこそ。ロイヤル・スター・ブレックファーストの本拠地へ!」
大部屋の中には、パンを作る材料の小麦が入った大袋が散乱し、お腹を空かした大勢の子供たちがパン粉を台車で運んでいた。
台車を運んでいた鋭い目をした少年がミリーに近寄り、何やら小声で話していたが、モートは気にせずに部屋の中央まで歩いて行った。
黒い魂をしていない子供たちだった。
皆、灰色か赤い色の魂だった。
「モート……。私を狙って、オーゼムさんの家に乱入してきた男たちは、対抗組織の一味で間違いないわ。今のところ私の命を狙うほど危険な対抗組織は一つだけ……グリーンピース・アンド・スコーンだけよ」
「場所は?」
「場所? 知らないわ……。グリーンピース・アンド・スコーンは最近、たちの悪い大人たちが組織を牛耳ったって噂だけれど、それ以外は知らないの」
モートはしばらく考えてから、ここでミリーを寝泊りさせた上に、護衛をすることした。そのために、ロイヤル・スター・ブレックファーストの本拠地に数日残ることにした。ミリーがいれば、ここロイヤル・スター・ブレックファーストのパン屋に近いうちに黒い魂が来るとモートは考えた。
モートは大学に通いながらロイヤル・スター・ブレックファーストのパン屋で四日間も滞在していた。寝泊まりしているミリーの護衛と共に時にはパン屋を手伝い。雪掻きをし、何故かモートの居場所を知ったオーゼムがパン屋へと来るころには、度々来るお客に挨拶をされる仲になっていた。
「ほう、ほう、素晴らしく善ですねー」
大きな雪だるまが飾ってあるパン屋の入り口付近で、いつまでもオーゼムは感心していた。外套の雪を落とし傘を仕舞うと微笑んだ。昼の14時だった。丁度、お客が少ない時間帯だ。ホワイト・シティは今日も相変わらず大雪だった。
モートは昼は子供たちとパン粉を練ったりしていたので、夜は勉強だった。当然、狩りには行っていない。
「オーゼム? よくここがわかったね?」
「いやいや、こちらからは……モート君の魂が見えるので……すぐですよ……」
モートはあえて自分の魂の色のことをオーゼムに聞かなかった。聞く必要がないと考えた。
「モート君は大学へも行っているようで、なによりですね。はい、真面目です。簡単な推理ですよ……。さて……ミリーは自分がロイヤル・スター・ブレックファーストの窃盗団でのリーダー的存在なのを、お家には黙っていますね。なので、モート君の考えを読むと、このパン屋で寝泊まりをしている。だから、ミリーのお家ではひどく心配されていますから、行ってみればすぐにわかります。でも……モート君の考えは正しいですね。ミリーの家が危険にさらされてしまうよりは、このロイヤル・スター・ブレックファーストのアジトの方が護衛をしやすい。と、いったところでしょうか」
そこで、オーゼムは急に不審な顔を近づけた。店番をしているモートに小声で囁いた。
「もうそろそろ、あなたの狩りの時間です。くれぐれもお店を壊したり狩りの対象を間違えないように……」
オーゼムは胸の上で十字を切った。
狭いパン屋に数人の客が来店してきた。
黒い魂だった。
青い魂の客の一人がクリームパンとフランスパンをレジに持ってきた。
モートは数字をレジで打ってから少し右手を振った。
瞬間、間隔の空いた男たちの首が全て飛んだ。
首なしの立ったままの五人の死体に、お客が鋭い悲鳴を上げるが、オーゼムがすぐに死体を光の奥にしまうと、この狭い店内には、静寂が支配した。
「オーゼム? 遺体から居場所を知りたかったのだけど……」
モートは苦笑いする。
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