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「お姉……様じゃない。貴方は誰ですか?」
「酷いわねえ、私が誰に見えるって言うのよ。アンタの、姉の、エトワール・ヴィアラッテアでしょ?」
「お姉様はそんなこと言いません。貴方は誰ですか?」
「聞き分けの悪い子」
と、舌打ちをしながら、目の前の天使のような少女は口元を歪める。忌々しそうに、私を睨み付けるとぶわりと彼女のまわりに、黒いもやが現われる。そのもやから、黒い棘がはえてき、私の方へつるつると伸びてくる。
私は、警戒し、後ろに下がりましたが、その棘は私を狙うように、ゆっくりと伸びてきます。
(凄い……殺気を感じます。この人は……)
絶対にお姉様じゃない。ということだけは確かで、私は、眉間に眉をひそめる。お姉様はもっと優しくて、おおらかで、優しい笑顔が素敵で。私の大好きで、憧れで、たった一人の家族なの。
だからこそ、目の前で、お姉様を語る、この人が、私は誰か分からなくて、そして、腹が立ったのです。いつも、こんなに感情が波打つこと何てないのに。この人のせいで、お姉様が苦しんでいるかも知れないと思うと、無償に腹が立って。
漏れ出た、私の魔力を感知したのか、また苛立ったように、エトワール・ヴィアラッテアとお姉様の名前を名乗った、誰かは、舌打ちを鳴らす。
ううん、この人も、エトワール・ヴィアラッテアなんでしょう。
(もう一人の、お姉様……いや、お姉様は、今聖女殿にいるあの人だけ……だから、この人は別世界か、若しくは、お姉様の姿を借りた何ものか)
私は、知っている。此の世界が、ゲームの世界だって。けれど、そういう認識で此の世界で生きてきたわけじゃない。だからこそ、本来お姉様が、悪役として、嫌われて、断罪されると言うことを知っているけれど、そうじゃない世界だってのも、私は分かっているつもりでいます。
そう、目の前にいるのは、きっと本来のエトワール・ヴィアラッテア何でしょう。お姉様が、転生した姿ではなくて、本来のエトワール・ヴィアラッテア。邪悪、といってしまうには悲しき存在。
私は、そんな人と向き合って、何を思えば良いのか分かりませんでした。
姿形は、お姉様。でも、中身は違って、魂も違って。
「いつまで、そんな風に睨んでいるつもりよ。アンタ、ほんと、自分に酔ってるわね」
「自分に……?いいえ、私は別に睨んでいたわけでは」
「アンタのこと、私は嫌いなのよ。アンタは愛される。何もしなくても愛される。そんな存在で!私は、何をしなくても愛されない。何をしても愛されない!酷くない!?私は、私は何も間違っていないのに」
そう言うと、ぶわりと彼女のまわりにかかっていたもやがよりいっそ濃くなって、それを、肥料にするかのように、棘に蕾が出来、その蕾が花を咲かせる。
「……っ」
今まで感じたことのない殺気に、怒りに、憎悪に、私の身体は震えていました。ここで、弱いところ見せれば、きっとつけ込まれて、ダメになると、私は、何とか自分の身体を押さえて、彼女と対峙しました。
やはり、お姉様と同じ顔で、酷い言葉を吐かれるのは、とても辛かったです。だって、顔も、声も、姿も全部お姉様だから。
お姉様はそんなこと言わなくて、私を愛してくれて……
もしかして、それが気にくわないのでしょうか。本来のエトワール・ヴィアラッテアのことは知っていた。どんな風な結末をむかえて、どんな女性なのかも。だから、彼女を警戒していた。お姉様は、はじめから悪い人間はいないと言っていましたが、彼女もその部類に含まれるとも。お姉様は、エトワール・ヴィアラッテアという身体に転生したからこそ、彼女の苦しみを理解していたのでしょう。誰よりも深く、誰よりも、思い入れて。
けれど、そんなお姉様を、目の前の彼女は、苦しめ、陥れようとしているのです。本当に可笑しな話。
「私は、確かに……何をしなくても、愛されました。けれど、けれど、こんなのは無いと思います。お姉様を、苦しめて、何がしたいんですか。貴方の目的は、私じゃないんですか」
「そうね、アンタのことも苦しめてやりたいわ。でもね、私には、まず、身体が必要なのよ」
と、エトワールは笑います。それはもう、愉快そうに、今にも「どんな風に壊すのが良いだろうか」と心の声が聞えてきそうなまでに。彼女の顔は、歪んでいるのです。ああ、なんて醜い感情なんでしょう、と私は、彼女を見て思う。
彼女は、自分醜さと、そんなことをしても惨めになるだけだということを知らないのでしょうか。
お姉様が言っていたとおり、此の世界は、ゲームだけれど、現実で、ここで生きているからこそ分かる人の温かさや、醜さが見えてくるってこういうことを言うんだろうなと思いました。エトワールは、ただの舞台装置でしかないけれど、でも、彼女はここで生きていて、辛い思いをしていると。
(そう思うと、私に出来ることって……何もないかも知れないです)
お姉様なら、彼女に声を届けかせることは出来るんでしょうが、私には出来ないのでは無いかと思ってしまった。だって、私は、本来であれば彼女の怒りを一身に受ける人物だから。
これは、現実だって、分かっているからこそ、彼女の怒りや苦しみを簡単に受け入れて、分かるよって言っても意味ないと。
「身体……お姉様の身体を乗っ取ろうとしているんですか?何故」
「何故って、二人も同じ人物が、同じ世界にいるってことは出来ないのよ。圧倒的に、彼女の方が認知度が高くて、私が除け者にされているの。このままじゃ、私は消えてしまう。だから、私は彼奴を殺して、エトワール・ヴィアラッテアになるのよ」
「意味が、分かりません……」
世界の理的に、同じ人物は、同じ世界に存在できないと言うことなのでしょう。そして、その異物と判断された方が命を奪われるか、消されるか、ということ。
ならば、何故彼女がここにいるのか、そこからよく分からないことになってくる。彼女は、何故ここにいるのかと。
「貴方は、どこから来たんですか。二人いるって可笑しいって」
「本来であれば、彼奴の身体は、私のものだったのよ。それが、追い出されて……」
と、エトワールは、怒りを隠せないというように、また髪の毛を逆立てた。
でも、この調子じゃ、結局は愛されないのではないかとか、悲しい目を向けてしまう。そに気づいたのか、エトワールは、夕焼けの瞳を鋭く尖らせた。
(つまり……お姉様が、エトワールの身体に入って転生してしまったことで、彼女がそのからだから追い出されてしまった……と言うことでしょうか)
その説明なら納得がいくと、自分の中で、答えを出し、頷く。
ということは、この目の前にいるエトワールは、他の世界から来たエトワールではなくて、元々此の世界に存在したであろう、エトワールの意識。つまりは、本当のエトワール。
転生というイレギュラーによって排除されてしまった、本来の物語の悪役。
それが、魂か、意識かが形となって、今私の目の前にあらわれたと。そうして、そのエトワールは身体を取り戻すために、お姉様を殺そうとしているのだと。
だとしたら、お姉様の身体はどうなるの? 死んだ身体に入っても、それはゾンビのように生き返ったとは言えないんじゃないかと。ならば、お姉様の意識だけを殺す? お姉様の魂を木っ端微塵に吹き飛ばそうとしている?
色々考えられたが、どうやってお姉様から、身体を奪い取ろうとしているのかはよく分からなかった。どの方法もリスクが伴い、尚且つ、失敗すれば、どちらもが消えてしまう可能性だってあるのです。
きっと、そこまで、計算しているのでしょうけれど、私には、理解できませんでした。
「身体を奪って、何をしようとしているんですか」
「愛されたいのよ」
「……お姉様の全てを奪って、愛されるなんて絶対あり得ません。そんなことをしても、貴方は、お姉様になれない」
「そうねえ、だから、もう一度、物語を最初からやり直すのよ」
「…………っ」
エトワールが言った、その言葉が、私の中の嫌な気持ちをグッと上に押し上げた。
物語を最初からやり直す。そんなことで切るわけないと、そう言いたかったが、一つだけ、方法があることに気がついた。でも、その方法は、残酷で、だからこそ、彼女が、お姉様を欲しているのでは無いかと思ったのだ。
(……でも、そんな……そんなことって)
「ダメです。絶対にさせません」
「察しが良いのね。私が何をしようとしているのか。それとも、ヒロインだから、私の事を止めようとしている?私を悪役にして、悲劇のヒロインぶろうとしている?」
「そんなことしたことないです。私は、私は……」
そういう風に設定されている私。けれど、それを悪用したことはなかったし、それで、お姉様が傷ついて、自分が嫌になったことだってあった。災厄を乗り越えて、お姉様に、私が本当の妹だって、知ってもらって、それでも受け入れてくれたお姉様。そんなお姉様が大好きで、私は、ずっと、彼女と一緒に家族として過ごせたら良いなと思っているだけで。
けれど、エトワールにはそう見えないんでしょうね。私が、ヒロインだから。もしかしたら彼女も、私を恨むように、設定されているのかも知れないけれど。
「だから、お姉様を……お姉様の身体を、魂を利用しようとしているんでしょう。そんなの絶対させませんから」
「勝手に言っておきなさい。それか、アンタが私を愛してくれれば済む話じゃない?彼奴を偽物にして、私を本物にする。アンタが、彼奴に与えてている愛を私に与えてくれれば、済む話でしょう?」
と、エトワールは笑う。言っていることが支離滅裂、分からない。
私は、顔を強ばらせながら、彼女を見る。エトワールは勝ち誇ったような笑みを私に向けてニヤリと笑う。
「禁忌の魔法です。それは、死者蘇生の魔法と同じく大きな代償を支払わないといけないんですよ。そんなことしたら……此の世界が、崩壊する可能性だってあるのに!」
「そんなの、知ったことじゃないわよ。私は、愛されたい。ただ、それだけのために生きるの。誰かが作った、こんな巫山戯た世界で、悪者扱いされるのは嫌。だから私は――」
――偽物のエトワール・ヴィアラッテアを殺して、世界を巻き戻す。