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第6話「体育祭は交代制」
ユウトは中学二年生。短く刈った黒髪に、体操着。腕や脚は日焼けしていて、真面目そうな顔立ちをしている。彼の中には三つの人格がいた。
一つ目は“代表人格”で落ち着いた性格。
二つ目は“全力疾走人格”。とにかく走るのが大好きで、体が勝手に加速する。
三つ目は“表現人格”。なぜか走る途中で踊ったり、ポーズを決めたりする癖がある。
今日は体育祭。グラウンドには赤・緑・黄のチームごとのテントが並び、父母や地域の人たちが観客席を埋めていた。競技種目のアナウンスは、各選手の「代表人格」と「交代予定人格」が記録された名簿を見ながら行われる。
「次のリレー、第2走者は――2年3組、ユウトくん!」
担任の先生は拡声器で説明を加えた。
「なお、ユウトくんは疾走人格に交代する可能性がありますのでご注意ください」
観客席から笑いが起こる。
バトンを受け取った瞬間、ユウトの目つきがギラリと変わり、全力疾走人格が前に出た。砂煙を上げて走る姿に歓声が上がる。隣のレーンを大きく引き離す勢いだ。
しかし途中で突然、表現人格に切り替わった。
ユウトは走りながら両手を広げてダンスのようにステップを踏み、観客席に向かってポーズを決める。カメラを構えていた保護者たちから爆笑が起こる。
「ユウトー!真面目に走れー!」とクラスメイトが叫ぶが、本人はにやにや笑ったまま。
再び全力疾走人格が表に出て猛スピードで走り、なんとか次の走者にバトンを渡した。順位は下がったが、会場の盛り上がりは最高潮。
ゴール後、先生がため息混じりに言った。
「まったく……この交代リレーは名物になっちゃってるな」
ユウトは代表人格に戻り、額の汗を拭いながら照れ笑いした。
「……俺、普通に走りたかったんだけど」
だが観客からは「面白かった!」「最高!」と拍手が飛び交う。体育祭では勝敗以上に、人格の“交代ショー”が一番の見どころになっていた。