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目黒くんの最寄りの駅で別れると、俺はすぐさま探偵事務所へ向かった。少し遅い時間とはいえ、今日のあのことは絶対に康二さんに伝えておかないといけない。
カランカラン……
ほんのりと明かりの灯った室内に入ると、資料を見て難しい顔を浮かべる康二さんとコーヒー片手に優雅に考え事をしている(であろう)宮舘さんがいた。
「……あれ、阿部ちゃんやん。どないしたん、今日は目黒さんとの仕事が終わったら家帰って良かったんやで?」
ふとこちらを一瞥した宮舘さんは、コーヒーカップを口に当てつつ、
「もしかして、何かあった?」
と一言。宮舘さんの鋭い質問に、俺は黙って頷いた。
「なるほど、かまいたちが唸っとったんか……」
「これだとやっぱり、他のものの仕業っていうのが濃厚になってきたね」
俺が簡単に目黒くんの身に起こりかけた話をすると、2人はうーむと唸りながら机の上に広げられた資料に目を戻す。
「明日はだてにも同行してもらおかな。かまいたち連れてるとはいえ、妖怪との接触があったなら2人の身にいつ危険が及ぶか分からんわ」
「康二は来なくていいの?」
「……俺はええかな。芸能界の人、ちょっと苦手やねん」
数秒の沈黙の後、康二さんはそう言った。康二さんが俺に隠していることは多い。芸能関係の人とも過去に何かあったんじゃないかと、ふと心配になる。
「あと、明日はかまいたちが唸り声あげてたとこの現場検証も行って来ようと思うねん。あんま大勢で行って変に怪異を刺激してもあかんやろしな」
「それはそうだね。じゃあ、そっちは康二に任せるよ」
「ありがとなぁだて」
「1人で現場検証って、大丈夫なんですか?」
「おん、俺は大丈夫や。それよりも阿部ちゃんを1人にする方が危険やわ」
任せときって! と元気よくグッドポーズをする康二さん。いつでも明るいその姿に、どこか気持ちが救われるような……そんな気がした。
そして次の日。俺は目黒くんに事情を話し宮舘さんと3人で仕事場に向かった。
昨日は目黒くんの仕事ぶりを眺めている間自分が場違いな気がしてずっと落ち着かなかったけれど、今日は宮舘さんが隣にいてくれたから比較的穏やかに過ごすことができた。
そして、仕事の合間の休憩時間。そこで事件は起こった。
「さっきの収録疲れたな〜」
「目黒さん結構無茶振りされてましたよね」
なんて軽い雑談を交わしながら次のスタジオへと向かおうとする。と不意に、
「あ、ごめんトイレ行ってもいい?」
目黒くんが親指でトイレの入り口を指して言った。
「もちろんですよ。ついでに俺も行っときます」
「じゃあ僕はここで待ってるね」
行けるうちに行っとこうという俺と目黒くん、入り口前で待つ宮舘さんに分かれた。
それぞれ用を足して手を洗っている時だった。少し先に手を洗い終えた俺が顔を上げると、ふと目黒くんの映る鏡に目線が行った。
鏡に映る目黒くんはもちろん目黒くんそのものと変わりない……けれど、どこか。何かが違うような、そんな気がしてしまった。
今日ずっと姿を見せていなかったかまいたちも、突然現れたかと思えば鏡に向かって威嚇する。そんな、もしかして。
「……目黒くん、危ない!」
俺がそう叫んで目黒くんの身体を引き寄せたのと、かまいたちが鏡に向かって攻撃するタイミング、そして鏡に映る目黒くんが鏡の中から出てきたタイミングが同時だった。
「うわっ、なに……!」
「阿部、目黒! 下がれ!」
状況が分からないまま尻もちを付く目黒くんと、俺の声を聞きつけて駆け込んで来てくれた宮舘さん。
宮舘さんはその場で赤紫色の数珠を取り出すと、俺達には分からない言葉で印を結び始める。
康二さんのいろいろで何となく状況を理解できるようになっている俺は、この場を宮舘さんに頼むことにして、目黒くんを連れて急いでこの場を去る。
「とりあえず、楽屋戻りましょう! マネージャーさんにも連絡を!」
「う、うん!」
目黒くんと手を繋いで廊下を走る。憧れたロマンチックな時間にも思えるが、状況が状況だ。覚えていたかも分からないような知らないテレビ局の廊下を、俺は先導して走った。
目黒くんの身体に問題は無く、その後の撮影や取材にも影響が出ることはなかった。
そういう探偵事務所の者だということはマネージャーさんにだけ伝えていたので、トイレでの騒動が警察沙汰のような大事になることもなく終息した。
目黒くんには詳細は後日伝えるとだけ話し、俺と宮舘さんは探偵事務所に戻ることにした。
「……”阿部”って呼び捨てしちゃってごめん。咄嗟のことで、考えてる余裕なかった」
帰る途中、俺の運転する車内の助手席で宮舘さんが不意に口を開いた。一瞬なんの事か分からなかったけど、すぐトイレでの騒動だと思い当たった。
「いえいえ、そんな改まらないでいいですよ。 こちらこそ、助けてもらってありがとうございます。なんだか、仲間って認められたみたいで嬉しかったです」
「構わないよ。……喜んでくれているなら良かった。ならこの先も阿部って呼ぼうかな」
「だから改まらないでくださいって。自由に呼んでください」
さっき危険なことがあったはずなのに、自然と生まれる会話、この柔らかい空気が、とても居心地が良かった。
「……阿部はもうずっと前から仲間だよ」
「えっ」
「運転ありがとう。申し訳ないけど先に行ってるね」
「あ、はい」
駐車場に着いた瞬間の言葉に、俺はちゃんと返すことができなかった。
コメント
2件
おお、トイレの鏡から出てくる“もう一人の目黒くん”…ゾクッとしたわ!かまいたちが威嚇してたのがいい伏線になってるし、阿部ちゃんが咄嗟に目黒くん引っ張るシーンは胸熱だった🔥宮舘さんの数珠バトルも渋くてカッコよかったし、「阿部って呼んでいい?」の流れでじんわり仲間認定されたのがほっこりした…!続きすごく気になる!
雪月❄️
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yuka @43日間男体化
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