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ゆうれい都とナギ

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ゆうれい都とナギ

8 - 第5話「山かけっこ、そして迷子」

2025年07月04日

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第5話「山かけっこ、そして迷子」
「よーい……どん!」


ユキコがそう叫んだとたん、風が一斉に走り出したように見えた。

ナギは、つられて足を前に出す。

サンダルの底が土をはじき、ミント色のTシャツが風を受けてふくらんだ。


ここは、山のふもとの広場だった。

誰が作ったのかわからない、石でできたコースが地面に描かれている。

走っても、まっすぐ行っても、どこか同じ場所に戻ってきそうな気がした。


ナギの後ろを、ユキコがついてくる。

彼女はまるで滑るように地面を進んでいた。

クリーム色のワンピースは、汗のあともなく、風の抵抗も受けていなかった。


「ユキコ、ほんとに走ってる?」


「うん、走ってるよー。たぶんね」


ユキコは笑いながら、ナギの横をすうっと通り抜けた。

ナギはちょっとムキになって、足に力を入れる。

「わたしはちゃんと走ってるんだぞ」と言いたくて。


でも、どれだけ走っても、道が終わらなかった。

木が生い茂る坂を登っても、つづら折りの道を曲がっても、

さっき見たはずの倒れかけた鳥居が、また現れる。


そして──ふいに、音が消えた。


「……ユキコ?」


立ち止まって、後ろを振り向く。

誰もいない。


「ユキコ?」


もう一度、声を出す。

なのに、返事がない。音もない。鳥の声すら止んでいた。


ナギは、不安を消すようにもう一歩、道を戻ろうとした。

でも足は、ぬかるみに沈んだように重かった。

空は、どんよりと曇っている。けれど雨は降らない。風もない。


だけど、どこかでセミが鳴いていた。

あの、同じ音ばかりが繰り返される、録音されたような鳴き声。


「……夢、なのかな」


小さくつぶやいたときだった。

どこかで、水がぽたぽたと落ちる音がした。


ナギが見上げると、木の枝の先にユキコがいた。

木に登ったわけではなく、ただそこに“浮かんで”いた。


「……ナギちゃん、見つけた」


ユキコの声は、ちょっとだけ震えていた。

いつもより、ほんのすこし、感情を持っているように聞こえた。


ナギは声を返せなかった。

ただ、手を伸ばした。

ユキコのワンピースの裾が、まるで霧のように指のすき間をすり抜けた。


「ねえ、ナギちゃん。わたし……さっき、自分の名前を忘れてた気がする」


ナギはゆっくりと首を横に振る。

何かを否定したかった。でも、うまくできなかった。


ふたりのあいだにあったのは、沈黙と、ひとすじの、風のようなものだった。

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