扉を開けると、そこは様々な道具や本が部屋いっぱいに並んでいた。
「わぁー! すごーい!!」
部屋を見るなり、テンションが上がって走り出そうとする妹を、ロキが無言で襟首を掴んで阻止する。ナイス、ロキっつぁん。
「確かにこれは……壮観ですね……」
流石の現実主義の伊織も、この部屋には驚きつつも棚に触れない様に気をつけながら近づく。伊織と付き合いが短いモノには分かりにくいだろうが、その姿は興味津々と言った感じである。俺にはわかる、素人は黙っとれぇ……。
「いや、マジでスゲーな……」
俺も触れないように距離を取りながら、部屋にあるものをざっと見渡す。
棚にはよく分からない、様々な……魔道具なのであろう物や書物などが綺麗に並べられている。また、空中に浮く謎にデカい天体観測用だがなんだったか……地球儀のようなグルグルと回転する球体とか……。
「なんかRPGとかでよく見る……!」
「分かる! ホント、それな!!」
「本当に、アナタたちは……!」
興奮する俺たち兄妹を見て、伊織が頭を抱えている。何故だ、我が自慢の幼なじみよ!?
「あーる……なんとか? は、存じませんが……こちらも『王宮宝物庫』や『大迷宮禁書庫』にも引けを取らないくらい貴重な魔道具や書物が豊富なのですよ」
セージのその言葉に、シラギクがどこか誇らしげな顔をし始める。
「そうなんですよ! この『魔導書具保管庫』は、あの才女! 『魔術の申し子』とも呼ばれているフレイファイア公爵様もお認めになった魔術と呪術を織り込んだ術式結界……『許可のないモノを惑わし』、『許可ないモノから守り』、『許可なく持ち出したモノを呪う』……私たち姉妹の共同傑作なのです!!」
シラギクの今にも『ドヤァ!』と聞こえてきそうなほどのドヤ顔に、何処と無く我が妹がドヤる時の顔が被る。きっと本質を知らなければ、素直に凄いと思えたのだろう……が、先程シラギクの根を知っているがためにイマイチ尊敬できない。
思い出すんだ、この目の前でドヤってる人物の本性を……コイツは大義と言いながら盗撮と盗聴を堂々やる上に、地味な嫌がらせでネチネチと仕返しをしてくるタイプのヤツだ。
そこを考えると、身内贔屓を差し引いても、ウチの妹の方がまだ……多少……ちょっと……ほんの、ほんの少しはまともに見えてくる。
そして、そんな天狗になったシラギクの鼻をへし折るかのように……狙撃手は静かに引き金を引いた。
「でもお前さぁ……ココが完成したその日に、ババァの気まぐれで速攻で解呪された上に、すぐに同じ術式の結界を貼り直されてたじゃん。……しかもお前が作ったものより、少し強固にされた状態で」
「……ぐっ!!」
ロキの言葉に、シラギクはバツの悪い顔をする。どうやら、本当のようだ。
「あっ、そういえば……。シラギク様はアンジェリカ様のことを凄く尊敬されていましたよね。それにココにあるものの殆ど、アンジェリカ様の作られた魔道具のレプリカや写本などをご本人から直々に頂いたものばかりですもんね♪」
「ロっ……ロロロロロ、ロキさん!? 神官様ぁぁぁぁぁぁああああっ!?」
ロキは明らかに、確実に急所を狙ったもの……だが、予想外のセージからの誤射を急所に受けたシラギクは、心臓を押さえるようなアクションをとると、そのまま茹でダコのように真っ赤になった顔を手で覆った。
「セージ……」
「セージさん……」
「え……?」
セージの悪意が一切ない純度百パーセントの……だからこそ当たればクリティカルヒット確定の、殺傷力抜群の攻撃……いや、口撃はシラギクにとって容赦がなかった。
……いや、これはシラギクでなくても殺傷力は高い。むしろオーバーキルだ。
故に、この場にいるモノ皆がシラギクに同情したし、『セージの流れ弾が、自分に当たらなくて良かった……』と、内心ではほっとしている。
俺はセージの肩に、ポンっと手を乗せる。
「なんというか……お兄さんはセージのそういうところ、セージの長所だと思うし、凄くいいと思う……それにな? 俺も個人的に、かなり気に入ってる……」
「ヤヒロさん……?」
だから俺は、セージにこれだけは伝えようと思った。
「……だからこそ、君には時に言葉が人を傷つける……そして君のつける傷は、やけに治りが遅いという……その事実を知っててくれると、本当……本っっっ当に、助かる……!!」
俺はセージの両肩に手を置いて、半ば懇願するように力を強める。……この俺の意見には、全員が同意見だった。
「えっと……はい、気をつけます!」
セージは力強く頷き、そう答える。
この子は根が真面目だ。だからこの返事も、適当な生返事などではない。俺を含めた全員がそう理解した。
……と、同時に直感した。『これはかなり長丁場になるぞ!』と。
「セージ……お兄さんはお前ならできる、と心の底から思っているからな!」
「……! はい! 僕、頑張ります!!」
瞳を輝かせながら『ふんす!』と鼻息を荒らげる。
そんなセージの肩を再度軽く叩きながら、俺は内心で祈りにも似た感情でこう思ったのだ。
セージよ……お兄さんは、君の成長を信じているぞ……!