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セージの成長を信じながら、俺たちは当初の目的である『魔力の量と、得意属性を調べる』為にシラギクの案内で部屋の奥へと向かう。
その間も、色々と興味をそそる物が沢山あった。そして言わずもがな……好奇心旺盛な妹がそちらへ行こうものなら、俺とロキで捕獲して止める。最終的にはロキが取り出した縄を妹の胴体に巻きつけて捕縛することに。……もちろん妹は抵抗し、不満げに頬を膨らませていた。
「えっと……こちらになります」
シラギクの案内により、俺たちは少し開けた場所へとたどり着いた。
円状に作られたそこには数段の段差があり、その中央の台の上には布が被せられていた。
シラギクがその布を外す。と、その下にはバスケットボール位の大きさの水晶が置かれていた。
水晶は透き通る水のような……いや、自然にゆっくりと凍った天然の氷のように、それはもう引き込まれそうになるほど美しかった。
「うぉ……スゲー綺麗な水晶だな……」
「本当に……綺麗ですね……」
俺と伊織はそう感嘆の声を漏らす。
……と、まぁそれをぶち壊すのは当然、こちらの方ですわなぁ。
「ねぇ……これ売ったらいくらになるのかなぁ?」
真剣な表情でそう問いかけてくる妹に対し、俺はこう答える。
「あー、俺もそれ気になるわぁー」
「だよねー?」
「なぁー?」
そして俺と妹は互いに顔を見合せ……。
「……って、こ〜と〜は〜ぁ〜?」
「やるしかねぇだろ……禁断の『アレ』を……!」
「えーっと……」
「あ、『アレ』……とは?」
俺たち兄妹の言葉に困惑を隠せないシラギクとセージ。一方のロキと伊織は、これから何が起きるのか大体の察しがついているのだろう……クールな視線で黙って成り行きを見守る。
「出張!」
「なんでも鑑定DAI!」
「「in 異世界〜!!」」
俺と妹は某鑑定番組のように、タイトルコールをする。そしてドンドンパフパフと盛り上がるようにと、シラギクとセージに拍手を促す。勢いに圧倒された二人は、訳も分からないままとりあえず拍手を返す。うむ、その適応力は社会に出た時に死ぬほど役に立つから覚えておけよ。世の中は理不尽だらけ……時には流れに身を任せることも必要じゃけぇ……。
「えー、本日の鑑定品はこちらの水晶です」
「これはまた、立派な水晶ですねぇ」
「では早速、鑑定してみましょう」
そう言って俺と妹は鑑定士の真似事のように目を近づいたり離したりと、様々な角度からぐるぐると水晶を見る。そして水晶の評価額を予想したり……まぁ鑑定能力など微塵もないので、俺と妹様は何となくそれっぽいことを言って熟練鑑定士ごっこをしていると……。
「お前らなぁ……」
「アナタたち兄妹は本当に……」
さすがに茶番が過ぎただろうか……ロキと伊織の盛大なため息と圧が、背後からピリピリと伝わってきた。
「せ……せめて、オープン・ザ・プラ……」
「しません!」
「おいくら……くらいかだけでも……」
「そもそもその水晶の値段を知ったところで、お前らには手が出せねぇーよ」
伊織とロキの言葉にバッサリと切り捨てられた俺と妹は、本来の目的を思い出すようお説教を受けたのだった。
▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁
「えーっと……こちらの水晶が、今から皆さんの『魔力の量』や『得意属性』を調べるものになります……」
シラギクは複雑そうな顔をしながら、そう言った。
では何故、『シラギクは複雑そうな顔』をしているのか、だって? そりゃあもちろん。
「あの……コレ、本当にこのまま説明を続けても大丈夫なやつですか……?」
「大丈夫です、続けてください」
「この兄妹に一々付き合ってたら、進むもんも進まねーよ」
「は、はぁ……?」
俺と妹は、激おこプンプン丸な伊織ママとロキママの二人に睨みを利かせられる形で、絶賛正座をさせられているからだZE☆
……ちなみに、『口を開けば脱線の嵐だ』ということで。ロキの持っていた『口封じの布』と言う魔導具で、魔法的にも物理的にも口を封じられた。
しかしまぁ、なんと言うか……この『口封じ』の魔導具。なんと遊び心のある、デザインなのでしょう。
昔、バラエティ番組などでよく見るような『ガーゼマスクにバッテンマーク』という、シンプルかつベター。……だがそれ故に、どこか愛着の湧くデザイン。
それをまさか、こんな異世界で……しかもまさにそのままのデザインのマスクを、お目にするとは。
……最近じゃあ社畜三昧で家に帰れば『最低限の飯と風呂とゲームというデイリーミッションを済ませて寝落ち』、『休日は前日に夜中までゲームをしては昼まで寝て、起きてから気分で溜まってる漫画とアニメをなんとなく消費して削られたSAN値を回復する』という感じで……テレビなんて、それ以外にはまともにつけてないからなぁ。
今もあのマスクのデザインはあのまま引き継がれているのか……はたまた時代に淘汰されたのかは不明ではある。だが『世界って本当に広いんだなぁー』と、俺は改めて思った。
……まぁ、今まさに、俺たちが居るココが異世界なんだがな!! そもそもの世界の規模が違うぜ!! ガハハハハッ!!
……なーんて、考えてみたりしていたら。
俺の考えを察知したのだろう。伊織ママとロキママが、物凄ーい剣幕で睨まれた。いや、ホント、マジでスンマセン……。
チラッと妹を見てみれば……俺と全く同じことを思っていたのであろう。
明らかに『この魔導具のデザインについて語りたい!!』といった風に、目を輝かせながらうずうずと俺を見ていた。
ので、俺は「落ち着け、妹よ……今はその時じゃない」と、目で落ち着くように念を送りながら、首を小さく横に振った。
「そ、それでは改めて。こちらの魔導具についての、ご説明をさせていただきます」
「はい、よろしくお願いします」
伊織が俺と妹に代わって、シラギクに使い方の説明をお願いをする。
「こちらの魔導具の使い方は、いたってシンプルです。そうですね……イオリ様、試しにこの水晶に触れてみてください」
「わ、私ですか……!?」
まさかの指名に、伊織は驚いた表情を浮かべる。
「私には無理ですよ! 第一に! 我々の住む世界には、魔法なんてものは存在していませんし!」
「別にいいんじゃねーか? どうせ試すだけだし……それに、魔法の存在しない異世界人に、魔力があるのか……僕は気になるね」
意外にもロキに背中を押された伊織は、さらに戸惑いながらも否定的な言葉を続ける。
「そ、そもそも! 私はまだ、魔法の存在を信じている訳でも、認めてる訳でもありませんし……」
「なら尚更、興味深いじゃねーか」
「確かに……ロキさんの言う通り、これは興味深いですね……」
ロキの言葉に、シラギクが同意する。
どった、どった? 二人して考え込むように、口元に手なんか当ててよぉ……お兄さんにもわかるように説明してくれ。
二人の会話の意図が分からず、助け舟を求めてセージへと視線を向ける。セージは二人の会話の意味も、俺の視線の意図も分かっていないのだろう……ただ『ニッコリ』と天使のような微笑みを返してくれた。違う、そうじゃない……。
「魔法が存在しないのは、イオリ様のような否定的な考え……これは、本当に私たちの世界とは違う世界に『魔力が存在しないから使えない』のか……」
「それか『魔力は存在する』が『否定的思考』……もしくは『使い方が分からない』……だから『使えない』と思い込んでいる、のか……」
「なるほど……たしかに、私たちの世界は魔力を扱えなくても、『生きとし生けるもの全て』が微力ながらも『魔力を持っている』のが前提ですからね……」
「その『前提の考え』がないから、仮に魔力を保有していたとしても『思考が邪魔をして魔法が使えない』ってことも有り得そうだな」
……と、こんな感じで。二人は何やら、ブツブツと議論を展開し始めた。
置いてけぼりの俺、妹、伊織の三人は、二人が何を真剣に議論しているのか全く分からず……ダメ元ではあるが、再びセージの方へと視線を向ける。
そして――――――。
「あの……お二人は一体、何について議論をされているのでしょうか……?」
ありがたいことに、今度は三人とも疑問が一致しているため、伊織が俺と妹様の代弁をしてくれたことだ。
「多分ですが……ロキとシラギク様は『魔法学理論』について話し合っているのだと思います」
「ま……『魔法学理論』……ですか?」
「はい」
俺たちがそろって首を傾げれば、セージは「僕もあまり詳しくはないのですが」と、前置きをしては頬を軽くかく。
「えっと……僕たちの世界には魔法が存在するのは、皆さんご存知ですね?」
セージの質問に、俺と妹は『コクコク』と頷く。
一方の伊織はと言うと。顔をしかめながら「私はまだ、完全には認めてはいませんが……」と、未だに現実主義者であることを主張している。
…………が! ココで勘違いするでないぞ、そこの素人共っ!
そう、今まさに! 我が幼なじみは、葛藤しているのである!
内心では目の前に広がるこの非現実的な出来事や空間を説明するには、否応にも魔法の存在を認めざるを得ない!
……のだが。俺たちオタク兄妹ならまだしも、生まれてからこの十六年間。幼い頃から常に勉学に励み、どんなトラブルも冷静に現状を判断・分析しては対処してきた伊織にとって魔法は言わば未知の世界なのだ。
そしてなによりも、伊織が魔法の存在を認めない理由……それは問題児である俺たち兄妹……いや、特にこの隣にいる妹様が一番の原因であるということを、俺は理解している。
なんせこの妹様、初めて伊織と出会ってからこれまで! 伊織の苦労など、一切理解してないのだろう。見たまえ、この『ドキドキとワクワクが止まらない!』といった表情を!
つまり伊織が魔法を認めるということは、妹にとって『ようこそ! こちらの世界へ!』という……まぁ簡単に説明すれば、だ。
伊織と出会って早十年近く、幼い頃から妹は『ファンタジーな異世界』や『魔法の存在』を心から信じていた。
それはもうどれくらいかと言えば、幼いながらも大人びていた伊織に対し、妹は毎回毎回内容や設定が変わる支離滅裂な話を熱心に続けていたくらいだ。
そして何の因果だろうか……この世界に転移しことで、これまでは『妹の頭の中で創り出された空想上の世界』が『本当に実在した』ということが証明されのだ。
伊織は悩んでいるのだ。ここであっさりと認めてしまったら、このトラブルメーカーな妹が、喜びのあまり暴走するということが目に見えているからだ!
見てみたまえ、諸君。
案の定、どうするべきかと困っている伊織が、俺へと視線を向ける。
その視線に対し、俺は妹様にバレないよう静かに首を横に振って『NO』という意を示したのだった。