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三時間後に海岸に姿を現した雄二はパラセイリングで遠目で見たよりも素敵な男の子だった、彼は近くで見ると、とてもハンサムだった
思春期男子特有のひょろっとしているけど手足は大きく、鈴子の見る限り、裕福層は太っている人はいない、金を使って体を鍛えるからだ、なので彼も間違いなくこれからジムに通い詰めて、逞しい成人男性に成長することを約束されていた
「ごめんね、無理やり呼び出して、どうしても君と話がしたかったんだ・・・」
「う・・・うん・・・」
雄二はニッコリ鈴子に微笑んだ
「少し歩こうか?」
「う・・・うん・・・」
彼が笑うと日焼けした顔に真っ白い歯が見えた、それにすっかり鈴子は魅せられてしまい、何も言えなくなった
「手・・・繋いでいい?」
「う・・・うん・・・」
ぎゅっと大きな手を握られると鈴子の心臓がドキドキし出した
「・・・キスしていい?」
「う・・・うん・・・」
彼が海を背に鈴子の肩を両手で持って唇を重ねて来た瞬間、思わず鈴子は目を閉じた、柔らかくて温かい彼の唇の感覚に酔いしれていると、突然大きな汽笛が鳴り、大型船舶が二人の目の前を横切って行った
「・・・邪魔が入ったな・・・」
クスクス・・・
「うん・・・」
雄二が離れて少し残念だったが鈴子がその巨大な船舶を見た時、時が止まった
―!!―
その大型船舶の先頭に男性と女性二人が佇んで前を見ていた、その女性に鈴子の視線は釘付けになった
「百合!!!」
信じられない!あの女とこんな所で会うなんて、髪も伸びて上品なスーツを着ているが、あれは間違いなく百合だ
鈴子が長年憎み続けて来た、忘れたくても忘れられないあの女が今鈴子の目の前を通り過ぎて行った、父と兄の事件を担当している刑事に百合を探してくれと何度頼んでも、警察は見つけられなかった!
こんな日本とかけ離れた地で船に乗ってこの女は何をしているんだ!
途端に鈴子の体の中で憎しみが蘇って来た、鈴子は雄二を突き飛ばして、船を追いかけて砂浜を走り出した
「百合ーーーーーーーー!!!逃げるなーーーーーーっっ!!」
鈴子は叫んだ!ここで会ったが百年目!今こそ父と兄の恨みをはらしてやる!しかし船はどんどん沖に進んで行く、風は大型の船を鈴子の心と裏腹に遠くへ運んでいく
波の音が叫ぶ鈴子の声をかき消していく、百合はまるでタイタニックの映画の様に船首で男とイチャついていた
「卑怯者ーーーーーー!!パパを返せーーーーー!兄さんを返せーーーー!!」
鈴子は走った!走って走って必死に叫んだ
「どうしてお前だけ生きているんだ!どうして兄さんを殺したんだ!!ーーーーー!」
あんまり走るのでとうとう足を砂に取られて、前のめりに転んでしまった、去って行く大型船舶の後ろに『Corsair ・Ship・Ito 』と書かれていた
グスッ・・・ヒック・・・
「コルセア号・・・伊藤・・・」
涙で辺りが霞むが、鈴子はその船の名前だけはしっかり目に焼き付けた
アハハハ(焦)「なっ・・・なんか、色々込み入った事情があるみたいだねっ・・そっそれじゃ・・僕はこれで」
そう言って雄二は鈴子の切迫した勢いに尻込みしてさっさといなくなった
悔しいっ!悔しい!やっと百合を見つけたのに
鈴子は何度も砂浜を殴った、殴って、殴って、殴り続けた
涙はどんどん砂浜に吸い込まれていった