『あの~~。大丈夫っすか?』
ふと誰かに声をかけられ振り返る。
街灯の逆光でよく顔が見えない。だけど声やシルエットで男性だと認識することができた。
『あ……大丈夫です。すみません。』
『いや~、大丈夫じゃないでしょ。こんな夜道に女性が一人でしゃがみ込んでいたら誰だって心配するし~ほっとけないっしょ。』
若干軽めのテンションが鼻につく。ほら、と手を差し伸べられ私は立ち上がる。
『すみません。ありがとうございました……』
『ちょっと待ちな?あんた怪我してるじゃん。
俺、バイクあるから家まで送ってやるよ。』
見ず知らずの人に送ってもらうのは当然警戒するし、気が引けてしまう。
『まあ、初対面だし警戒されてもしゃ~ないよなあ。ごめんごめん。おれ林田 桃太』
『は、はあ……。』
『あんたは?』
『私は、綾瀬 京子………です。』
『よろしく。』
半ば無理やり握手をさせられる。
『はい~俺ら知り合いになりました~‼︎で、家どこ?送ってやるよ。』
『あ、いやそんな悪いです。』
『あーあそんなこと言っちゃうんだあ‼︎だ~めだよこんな夜道ひとりで帰るの。最近行方不明の事件多発してるの知らないの君?』
この言葉に強く反応してしまい肩がビクリと跳ねてしまった。
『あああ~‼︎ごめんごめん驚かしてしまったよな。』
『あ、いえ………すみません。………その事件って…?』
『あー。本気で知らない感じ?じゃあ事件について教えるから、綾瀬ちゃんの家まで送らせて。』
『…………。はい。お願いします。』
見知らぬ人に家に送られる恐怖心と事件について何か知ることができるという好奇心が葛藤したが、結果的に好奇心が勝ってしまい結局林田に家の位置を教え送ってもらうことになった。
『え、家ってあの学生アパート?俺と一緒じゃん‼︎』
なんと林田は私と同じ大学、同級で家までも一緒だったのだ。
『一緒のアパートなんてめっちゃ偶然だよね‼︎あ、事件のことなんだけど………』
学生アパートのロビーにつくなり林田は急に後ろを振り向くとぶつぶつ何かを言い始めた。
『いや、俺の部屋で教えるのもな…下心丸出しだと思われたら嫌だしな。かと言ってこの子の部屋に入れてもらうってのもなああ……』
『あのチャットとかウェブ会議とか使うのはどうですか…?』
『おおおおおお‼︎それ‼︎それいいな‼︎あ!じゃあこれ俺の連絡先‼︎‼︎』
そう言い一緒にエレベーターに乗り込み5階を押す。
『同じ階じゃん‼︎』
突然隣で大声を出すのがどうも鬱陶しい。どうやら私と林田は同じ階に住んでいるみたいだ。
『はは………偶然ですね。』
『まさか部屋もお隣とか…………??』
『いやあ、どうでしょう。私はこっち、503号室です。』
『あーーーー。そんな少女漫画的な展開はないかあ。俺はこっち501号室。まあ実質お隣さんだな。うん。』
何に納得しているのかが全くわからないが、そんな悪い人ではなさそうだ。
『送ってくださりありがとうございます。じゃあまた。』
『じゃ!!あとで連絡するわ‼︎』
林田のテンションに若干引きつつも、この日は無事帰宅することができた。