テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
病院を出た。
父さんは何も言わなかった。
母さんも。
俺たちの間には、言葉にできない何かが残っていた。
「204号室」
俺はスマホを見る。
Rから届いたメッセージ。
『204号室で待ってる』
その下には。
『父さんには、絶対に言わないで』
「悠真」
美咲が隣を歩く。
「本当に行くの?」
「行く」
「でも、お母さんは行くなって言った」
「だからこそ行く」
俺は立ち止まった。
「母さんも父さんも、何かを隠してる」
「俺のことを知ってる」
「俺が知らない俺の過去を」
美咲は黙っている。
「俺はもう、誰かに答えを教えてもらうのを待つのは嫌なんだ」
俺はスマホを握る。
「自分で確かめる」
美咲は少し考えて。
「……分かった」
そう言った。
「私も行く」
蒼葉システム。
現在は使われていない古いビル。
建物の入口には立入禁止の札がある。
俺たちは裏口から中へ入った。
埃っぽい空気。
誰もいない。
「204号室って二階?」
美咲が聞く。
「たぶん」
俺たちは階段を上る。
一階。
二階。
廊下を進む。
部屋番号を確認する。
201。
202。
203。
そして。
204。
俺は立ち止まった。
扉には鍵がかかっている。
俺はRから渡された鍵を取り出した。
鍵穴に差し込む。
カチャ。
鍵が開いた。
扉を開ける。
中は真っ暗だった。
「……誰もいない?」
美咲が小声で言う。
俺はスマホのライトをつける。
部屋の中には机が一つ。
椅子が二つ。
#狂愛
柏木さくら
3,861
イキリ火の玉
42
リユ
232
榎本くもり
175
古い棚。
そして。
壁一面に貼られた写真。
俺は息を止めた。
「……何だよ、これ」
写真。
写真。
写真。
そのほとんどが。
俺だった。
幼い頃の俺。
小学生の俺。
中学生の俺。
高校生の俺。
学校の帰り道。
公園。
家の近く。
全部。
誰かがずっと。
俺を見ていた。
「悠真……」
美咲の声が震える。
「これ……いつから?」
俺は写真を一枚手に取る。
裏を見る。
日付。
2009年。
俺が生まれた年。
「……嘘だろ」
俺の写真の隣。
そこには。
一人の赤ん坊の写真。
名前が書いてある。
**神谷悠真**
その下に。
別の名前。
**神谷蓮**
「……蓮?」
美咲が呟く。
「誰?」
俺は答えられない。
その時。
部屋の奥から物音がした。
ガタン。
俺と美咲が振り返る。
「誰かいる?」
返事はない。
俺はゆっくり奥へ進む。
棚の裏。
そこに小さな扉があった。
開ける。
中に古い箱が入っている。
箱の蓋には。
**神谷家**
と書かれていた。
「これ……」
俺は箱を開ける。
中には大量の書類。
そして。
一枚の写真。
若い父さん。
その隣に。
見知らぬ女性。
女性は赤ん坊を抱いている。
俺は写真を見つめる。
「この人……」
美咲が言う。
「私の母親」
俺は顔を上げる。
「……え?」
写真の裏を見る。
そこには。
日付。
2009年。
そして。
一行。
**『二人の子供を守るために』**
俺の手が震える。
「二人……」
俺は写真を見る。
赤ん坊。
俺。
そして。
もう一人。
神谷蓮。
俺には兄がいる。
それは分かった。
でも。
写真の女性。
美咲の母親。
父さん。
そして。
R。
全部がつながっている。
「待って」
美咲が何かに気づく。
「この写真……」
彼女が写真の端を指差す。
そこに。
小さく写っている男。
顔は見えない。
でも。
胸元に。
赤い「R」の文字。
「……R」
俺は息をのむ。
その瞬間。
部屋のスピーカーから音が流れた。
『来たんだね』
俺たちは振り返る。
「R?」
『正確には違う』
「何?」
『僕はRじゃない』
俺は固まった。
「じゃあ、お前は誰なんだ!」
スピーカーから声がする。
『Rは、僕一人じゃない』
「……え?」
『Rは名前じゃない』
『役割だ』
部屋の照明がつく。
壁の中央。
大きなモニターに文字が表示される。
**R = RECRUITER**
俺は画面を見つめる。
『僕は、君たちを救うためにRになった』
『でも――』
映像が切り替わる。
そこには。
若い頃の父さん。
そして。
その隣にいる。
神谷蓮。
『僕の前にも』
『Rは存在した』
俺は息を止めた。
『そして』
『君のお父さんも』
映像の中の父さんが振り返る。
胸元に。
赤い「R」。
「……父さんが?」
『そう』
『君のお父さんは』
『かつて、君たちを守る側だった』
画面が暗くなる。
最後に。
一枚の写真が表示される。
幼い俺。
その隣に。
幼い蓮。
そして。
二人を見つめる。
父さん。
その写真の下には。
こう書かれていた。
**『最初のR』**
俺は動けなかった。
Rは一人じゃない。
兄も。
父さんも。
そして。
もしかすると。
俺自身も。
いつか。
Rになる運命だったのかもしれない。
その時。
スピーカーから最後の言葉が聞こえた。
『悠真』
『君が闇バイトに応募した日』
『あの日から、すべてが始まったんじゃない』
『君が生まれた日から』
『もう始まっていたんだ』
(第四十六話へ続く)
コメント
1件
うわ、44話からの続き、一気に読んじゃいました……。この「空白の部屋」、完全に核心に迫る展開ですね。 まず、壁一面の写真の描写が静かに怖くて。悠真の人生をずっと誰かが見ていたっていう事実が、じわじわと心に刺さります。そして「Rは一人じゃない」「Rは役割だ」っていう明かし方 — るしゅさん、伏線の回収の仕方が美しすぎます。父さんが「最初のR」だったって衝撃でした。 最後の「君が生まれた日から、もう始まっていた」っていう言葉、重すぎる……。この世界観、すごく緻密に組み立てられてますね。続きが待ちきれないです!